11話 これでいいのだ。


 11話 これでいいのだ。



「……解放……された……え、ほんとに? え、なんで……」



 『カズナの解放』を願ってはみたものの、

 普通に『無理だね』と切り捨てられるだろうと思っていた。


 もしくは、先ほどの人類救済の時と同じように、

 『ウーハー! はい、カズナは救われたよ、知らんけど』

 の流れになると予想していたが、


「ふふん。言っただろ? 僕はそこらの神格とは格が違うんだ。君が何を願うかぐらい、最初から予想がついていた。だから、言われる前に叶えておいたよ」


 その声音や雰囲気から、

 『これは、ただの嘘ではない』

 と、センは思った。


 あくまでも『感覚』の話。

 しかし、とても大事なこと。


 ファントムトーカー同士にしかわからない言葉の重み。

 ――『ソレ』を、センは、ニャルの言葉から感じ取った。


 ニャルは、畳みかけるように、


「彼女の記憶……今のところ、まだ残っているけれど、今回のループから、彼女も『剣舞のターゲット』に入る。そして、次回以降は記憶も残らない。つまり、彼女は『君と出会う前の彼女』に戻る。君という支柱を失うことで、心のどこかにぽっかりと穴は開くだろうが、この地獄からは解放される。ちなみに、『心に穴があく』っていうのは、もちろん、『虚しさ』という精神状態をあらわす比喩で、実際に穴があくわけじゃないよ?」


「……」


「さあ、センエース。僕の凄さを称えるといい。あらん限りの絶賛で力の限り誉めそやすがいい」


 尊大な態度で、

 ナメ腐ったことを口にするニャルに、

 センは、



「……ありがとう……神様」



 心からの礼を口にした。


 その言葉が、あまりにも真剣だったから、

 ニャルは、ニヤニヤ顔を変えるコトこそしなかったけれど、


「お礼なんていらないんだからねっ」


 そう言って、まるで照れ隠しのように、

 ドロンと、煙のように、その場から、消え去った。


 静かな夜に独り、

 センは、天を見上げて、



「……綺麗な星空だ……」



 なんて、そんな、意味のない言葉をボソっと口にした。



 ★



 ――100周目、初日の朝。

 センは、『図虚空』と『銀の鍵』が、

 『間違いなく持ちこされているか』を確認してから、

 スマホを手に取り、

 すでに、完璧に覚えてしまった番号を入力した。


 数回の呼び出し音のあと、



「……はい?」



 名前を名乗らず、返事だけで様子をうかがうカズナ。

 明らかに『不振がっている彼女の様子』を受けた時点で、

 センは、ほとんど100%確信したのだが、

 一応、



「センです……」



「……せん? は? え? なに? それ、名前? え、誰?」



「……もうすでに、世界は100回くらい終わっているのですが……あなたに、その『世界終焉の記憶』はありますか?」


「……ぁあ? なに? キモ……どういう宗教の勧誘?」


「……」


 間違いなく、カズナの記憶の中から、

 『センエースの全て』が抜け落ちていることを確認してから、



「……すいません、間違えました。忘れてください」



 丁寧に謝罪するセンに、

 カズナは、


「……ちっ……こんな朝っぱらから……いい加減にしろ、ボケ、カス」


 そう言い捨ててから、電話を切った。


 しばらく一緒に行動していた相手との決別。

 その余韻に少しだけ浸(ひた)ってから、




「……これでいい」




 ボソっと、そうつぶやいた。


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