58話 絶望は、まだ終わりじゃない。むしろ、ここからが本番。

 58話 絶望は、まだ終わりじゃない。むしろ、ここからが本番。


「ちなみに、もう気づいていると思うが、異空間も完璧に封鎖させてもらった。亜空間倉庫への接続も、固有世界とのリンクも、全て断たせてもらった。お前のセキュリティに対して干渉することは難しいが、『存在値1のカスでは触れないように壁を張る』だけなら、一ミリも難しくない。もう、ここまできたら、あとは惰性で充分。存在値1だと、本当に、何もできないからな」


「……」


「焦燥と、歯がゆさと、イラ立ち……いろいろな負の感情が、一気に襲ってきているころだろうが……」


 そこで、オメガは、

 センの顔つきをまじまじと見て、


「……しかし、それでも、『芯の冷静さ』だけは揺るがない……」


 存在値を奪われ、

 心がオーバーロードして、


 しかし、それでも、

 センは前を向いていた。


 芯の奥が、ドクドクと、力強く脈打って、

 『魂の核』を、強制的に、奮い立たせている。


 その様を見て、

 オメガは、


「……お前は本当に強い」


 心の底からの感想を述べた。


 ――と、

 そこで、センは、

 グっと顎をあげて、

 オメガの『向こう側』を睨みつけ、



「――ルナ、いい加減、帰ってこい。お前は俺の携帯ドラゴンだろうが。いつまでも、洗脳されてんじゃねぇ」



 ルナに語り掛けるものの、

 しかし、反応は一切ない。


 そんなセンに対し、

 オメガは、しゅくしゅくと、

 まるで、予定調和みたいに、

 台本でも読み上げるかのごとく、


「まあ、そこしかないよな。存在値がカスになっても、お前には『無敵の戦闘力』があるから、存在値を底上げできる『携帯ドラゴン』さえ取り戻せれば、まだまだ、全然、可能性はある。しかし、残念。ルナは洗脳されているわけじゃない。ルナは『自分の意思』で、俺と共にいる。つまり、現状、ルナは、お前の敵だ」


「……」


「存在値を奪われ、アイテムを奪われ、亜空間を奪われ、アダムもシューリもミシャも奪われ、さらには、ソンキーやトウシとつながることさえ、現状では許されていない。今のお前の魔力で、『異世界とコンタクトを取る事』など、できるワケがないからな」


 現状のセンは、ランク1の通信魔法すら、まともに使えない。

 『存在値が1になる』というのは、

 想像を絶するハンディキャップ。


「ゼノリカに頼ることも出来ない。あいつらは、この世界にいるから『物理的な意味』での『接触』は不可能じゃないが、今のお前の脚力で、俺の前から逃げることは不可能。そもそも、ゼノリカに助けを求めたところで、俺に勝てる者などいないから無意味。俺に勝てる可能性がある者は極めて少ない。そのことは、他でもない、お前自身が一番よく理解していることだろう」


「……」


「これで終わりじゃないぞ。ここまでしても、お前からは『もしかしたら』という可能性を感じてしまう。というか、実際、お前は、P型センキーとの闘いで、その狂った可能性を、これでもかと豪快に示してみせた。お前は本当に異常だ。ヤバすぎる。だから、最後の最後まで、徹底させてもらう。力とアイテムと亜空間と繋がりだけではなく、続けて、『記憶』も奪わせてもらう」

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