59話 あらゆる全ての希望を、根こそぎ奪い取る。

 59話 あらゆる全ての希望を、根こそぎ奪い取る。


「センエース。お前は本当に異常だ。ヤバすぎる。だから、最後の最後まで、徹底させてもらう。力とアイテムと亜空間と繋がりだけではなく、続けて、『記憶』も奪わせてもらう」



 そう言いながら、

 オメガが、パチンと指をならすと、


「……っ……」


 センの頭の中が、

 ジワっと白くなっていく。


 一瞬で消えるわけではなく、

 夏場のアイスクリームみたいに、

 表面からドロリと溶けていく。


「くっ……うっ……」


 なんとか、抗おうとするものの、

 『オーラをまともに捻出すること』も、

 『魔力を顕現させる事』さえも難しい現状だと、

 記憶破壊系の魔法に抗う術などない。


 どんどん、どんどん、

 大事な記憶が消えていく。


(消える……っ……頭の中が……とけていく……っ)


 センエースの記憶が削り落とされていく。



「力も、アイテムも、亜空間も、繋がりも、記憶も……何もかも全て奪われて……しかし、お前は、それでも、抗うか?」



 その問いに対する答えを考えている余裕などない。

 今のセンは、

 必死になって、この状況を打破する案を求めるばかり。


 もっとも、

 その姿勢こそが、オメガの望む『アンサー』なのだが。


 だから、


「お前は、本当に強いよ、センエース」


 オメガは、また、改めて、

 心の底から、そう賞賛した。


 センは、そんなオメガの言葉など聞いちゃいない。

 『この危機的状況を、どう乗り越えるか』

 それのみを、必死になって考えている。


 ――結果、




「俺の命を全て捧げる!!」




 最後の最後の手段に出る。

 とびっきりのジョーカー。


 『覚悟』の最終形態。


「だから! ほんの少しだけでいいから! 10秒でも、5秒でもいいから、俺の力を取り戻してくれ!! プラスアルファはいらない! 少しだけ、数秒だけ、8割でも、7割でもいいから、奪われたものを、わずかに取り戻すだけでもいいから! だから――」


 決死の覚悟でコスモゾーンと交渉するセン。

 そんなセンに、

 オメガは無慈悲な言葉を投げかける。


「ああ、言い忘れていたな。コスモゾーンとの接触も断たせてもらった」


「っ?! なっ……んなアホな……そんなこと……」


「まあ、だいぶ厳しい前提を積む必要があったが……しかし、さっきも言ったように、この世には『不可能』なんてものは存在しない。なんだってできるさ。頑張ればな」


「……」



「ちなみに言っておくと、ソウルゲートとの接触も断たせてもらった。お前に可能性を残すと、何が起こるかわからないからな。だから、本当に、ガチンコで、徹底的に、ありとあらゆる前提を積ませてもらった。希望の全てを殺しつくし、お前の未来を、全身全霊で封鎖した」



「……」


「ここまでして、しかし、まだ、『何か可能性があるんじゃないか』と、俺に不安を抱かせるほど、お前は強すぎる。数値ではなく、魂魄が強い。お前は最強だ。お前こそが、間違いなく、全世界最強のヒーロー」


「……」


「しかし、死ぬ。俺が殺す」


 希望も、可能性も、

 すべてを失ったセン。


 あまりの絶望に、

 さすがのセンも、

 一瞬、クラっとする。


「こんな……メチャクチャ……」


 つい、声がこぼれた。

 ひどすぎる現状に対し、

 当たり前のグチをこぼすセン。

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