57話 何もかも全て、奪いつくす。

 57話 何もかも全て、奪いつくす。


「ま、何と言われようと、お前は、必死になって、この状況をどうにかしようと、頭をまわすだろうがな。お前はそういう男だ。だからこそ、お前は、俺を超えることが出来た。だが、しかし、それがゆえに、お前は死ぬ。俺より強い程度のザコに、俺は負けないから」


 そこで、オメガは、


「ぶっちゃけた話……『どんな絶望を前にしても諦めない』という『その資質』は『この俺』にも、相当なレベルで備わっているものだが、しかし、お前は、そんな俺の一歩先をいった。正直、悔しいよ。根性だけは、この俺こそが最強だと思っていたからな」


 遠い目をして、


「ふざけた話だと思わないか? 俺、けっこう、頑張ったんだぜ? けど、お前は、そんな俺をアッサリと超えやがった。虚しい話だぜ。……いや、まあ、お前の視点だと、わずかも『アッサリ』ではなかっただろうが……けど、まあ、俺の視点・感情だと、ついつい、そう思ってしまう。命と命は、結局のところ……たとえ、どれだけシルエットが似通っていても、決して、わかり合うことはできない」


 などと、意味深なことを口にしてから、


「お前と俺の間にある『差』は、実際のところ、『微々たるズレ』ぐらいのものなんだろうが……感覚の上では、絶望的な絶対的差に感じる。ほんと、虚しい……」


 『痛みを伴う言葉』を使っていながら、

 しかし、その表情は、どこか『晴々』としていた。

 心のしこりが取れたような顔。


 ある種の諦めた顔でもあるが、

 しかし、ただの諦観とは、

 やはり、どこか、少し違う。


「センエース。お前は俺を超えた。だから、俺に負ける。お前が今まで、多くの『敵』に対してかましてきた『理不尽』を、今日だけは、俺が、お前に対して突き付ける。因果応報。まわるんだよ。業ってやつは。良くも悪くも。すべては円になっているから」


 その言葉に対し、

 センは一切、反応を示さない。


 『現状のヤバさ』を痛感し、

 激しく動揺している。


 ――実のところ、セレナーデの効果によって、

 存在値だけではなく、心にも多大な削りを入れられているのだ。


 『イタズラな領域外の牢獄』ほど露骨ではないが、

 セレナーデは、明確に、センエースの精神力に圧力をかけている。


 だが、そのことにセンは気づけていない。


 なぜなら、オメガは、

 そういった部分の『隠ぺい』にも、

 かなりの力を注いだから。


 オメガが、今日までに積み重ねてきた『永き時間』の中で、

 『センエースを叩き潰すために整えてきた全て』は、

 ある意味で酔狂だが、しかし、決して伊達ではない。


 ゆえに、センは気づけない。

 自分の精神力に『大きな負荷がかかっている』という事に気づけず、

 結果、

 『なぜか過剰に膨れ上がる焦燥感や動揺を抑えきれない』という、

 それまでの自分ではありえなかった謎の不可思議に対し、

 純粋に、慌てふためいている。


「ちなみに、もう気づいていると思うが、異空間も完璧に封鎖させてもらった。亜空間倉庫への接続も、固有世界とのリンクも、全て断たせてもらった。お前のセキュリティに対して干渉することは難しいが、『存在値1のカスでは触れないように壁を張る』だけなら、一ミリも難しくない。もう、ここまできたら、あとは惰性で充分。存在値1だと、本当に、何もできないからな」

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