13話 この上なく尊き、命の道標。

 13話 この上なく尊き、命の道標。


「センエースという概念そのものを嘲弄したわけではない!」


 そこから、カンツは、丁寧に言葉を紡いでいく。


「ワシにいわせれば、センエース至上主義は、むしろ、酷い『甘え』だ! 『何もかも全て神のおかげ』という考え方は、見方をズラせば『何もかもすべて神まかせ』という責任放棄にもなりうる!」


 実際に『センエース至上主義が、そういう観点でモノを見ているかどうか』――その点については、議論の余地がある。


 ただ、カンツの視点だと、

 『そう見えてしまうこと』が、 

 『あまりにも多い』というのも、

 また一つの事実。


 これは、個々の『考え方』の違い。

 『捉え方』の違いである。


「――『どんな絶望を前にしても、あきらめずに弱い命を守るために戦い続ける』――その概念・理念は、ワシの正義にも合致する! その覚悟は極めて尊い! それは認める! だが、しかぁし! そんな概念の『擬人化』でしかない『センエースという偶像』を必要以上に崇め奉る行為は、むしろ、『崇高な概念に対する冒涜』だと、ワシは考える!!」


 カンツは、感情でセンエースを否定しているわけではない。

 自身の中に『どんな絶望を前にしても、あきらめずに弱い命を守るために戦い続ける』という概念が、確かな信念・正義として根付いているからこそ、『概念によりかかっているだけ』に見える『聖典信仰』に対して、強い反発心を抱いてしまう。


「センエースという概念は『志(こころざ)すに値する道標』ではあっても『すがりつく逃げ道』ではなぁぁい!」


「……その意見にも、何の異論もない! 全面的に同意する! 『宗教的観点上の神という概念』に、ある種の『駆け込み寺的な側面』があるのは事実! しかし、尊き主は、決して『逃げ道』ではない! 神を逃げ道にするなどゆるさない! 神は、私に、進むべき道を示してくれた光! この上なく尊き、命の道標!」


 マリスは、魂を込めて叫ぶ。

 『論破しよう』と思っているのではない。

 ただ、ただ、純粋に、

 自分の想いを叫び続ける。


「カンツ! あなたの覚悟と『献身』は尊い!」


 マリスは、カンツを認めている。

 合わない相手だし、苦手ではあるが、

 決して『嫌悪感』は抱いていない。


 ――『カンツが積んできた想い』だって、

 マリスの未来を照らす道標の一つ。


「あなたが積んできた全ては、とてつもなく美しい! わずかも弛(たゆ)むことなく、何千年もの間、自身を磨き続け、頑なに、愚直に、真摯に、『正義の化身』で在り続けたあなたのことを、心から敬愛している!!」


 マリスはカンツを知っている。

 カンツの狂気を知っている。


 というか、ゼノリカにカンツの狂気を知らぬ者はいない。


 狂気的な信念に身を投じ、

 武を磨き続けた男の事を知らぬ者はいない。


 彼が、ゼノリカの中でも、最強格の実力を持っている理由は、

 決して、『冗談みたいなスペシャルを有しているから』ではない。


 彼が圧倒的に強い理由は、

 『休まないウサギしかいないゼノリカ』の中でも、

 一・二を争うほどの卓越した努力家だから。


 確かに、優れたスペシャルを持っている。

 確かに、先天的に優れた肉体を有している。


 しかし、そんなものよりも、

 彼が積んできた覚悟の方が、はるかに尊い。


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