14話 無上の献身。

 14話 無上の献身。


「あなたが積んできた全ては、とてつもなく美しい! わずかも弛(たゆ)むことなく、何千年もの間、自身を磨き続け、頑なに、愚直に、真摯に、『正義の化身』で在り続けたあなたのことを、心から敬愛している!!」


 マリスはカンツを知っている。

 カンツの狂気を知っている。


 というか、ゼノリカにカンツの狂気を知らぬ者はいない。


「……栄えあるゼノリカの天上、九華十傑の第十席14位カンツ・ソーヨーシ! あなたはスゴイ男だ! 『信じた正義を執行する』という理念のために、人生の全てをささげたその覚悟に、私は、心底からの敬意をささげる! そこにウソは微塵もない!」


 マリスは、間違いなくカンツを尊敬している。

 命も、時間も、覚悟も、想いも、

 全てを正義にささげた男の狂気を、

 マリスは、心底から敬愛している。


 それは事実。

 絶対的な真実!


「……しかし! あの日、神の背中にみた『無上の献身』は『あなたの覚悟』をも超えていた!」


「……」


「……聖典に書かれていることは、全て事実だったと分かった!! 神の愛に! 嘘は一つもなかった!」


 物語としてなら『面白がって見ること』が出来る。

 しかし、書かれていた全てを『事実』として受け止めると、

 呼吸が難しくなるほど、胸が苦しくなった。


「……想像すら出来ないだろう! 無数の世界が交わった戦争を! ありえない数のバグを! 次元の違う強さを持った愚神を! たった一人で背負った重み! 誰もが、明日をあきらめた地獄の底の底で! それでも! たった一人、前を向いて、ヒーロー見参と叫び続けてくれた、そのありえない献身を、わずかでも想像できるか!!」


「……」


「……もう一度だけ言おう! あの日、P型とかいう、途方もない絶望との闘いで、私の魂魄には、神が宿った!」


 そこで、マリスは、右手に想いを込める。


「……神の愛を受けて、だから、当然、その愛に応えたいと想った!」


 右手を、強く、強く、握りしめる。



「神が示してくれた、その覚悟を! その献身を! その光を!」



 魔力とオーラが充実していく。

 ありえないほどに輝く。


「すべて!!」


 だから、


「集めて!!」



 届く!

 想いの結晶!

 信念の最果て!






「――『閃拳』っ!!!」






 それは、ただのサルマネ。

 覚悟も練度もまるで足りてはいない、

 たんなる『ヒーローのまねごと』。


 けれど、間違いなく、この上なく尊き英雄の模倣。


 だから、無意味では終わらなかった。

 想いの結晶は、マリスの拳に可能性を与えた。


 極限まで磨き抜かれたオーラと魔力に込められた可能性は、


「……ぅ……ぐ……っ」


 当然――とは言わないけれど、

 しかし、間違いなく、カンツに届いた。



「……バカな……どういうことだ……信じられん……ただの拳一発で……ワシに膝をつかせるとは……」



 ――口に出していったことはないが、

 しかし、カンツは、

 『ゾメガのエニグマミーティアをその身に受けても、立っていられる自信がある』

 という不遜な自惚れを抱いている。


 『それが事実かどうか』は、この際、置いておくが、

 少なくとも、

 心に『それほどの傲岸(ごうがん)』を抱いてしまうほど、

 『圧倒的な耐久力』があるのは現実。


 それだけの自信を抱けるほど、

 必死になって積んできた時間と覚悟は、

 決して伊達ではない。


 ――しかし、そんなカンツの膝を、

 マリスは、たった一発の拳で、へし折ってみせた。


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