12話 神に丸投げ。

 12話 神に丸投げ。


「……迂遠な回り道はやめて、ド直球の本音で話そう。あの日、P型とかいう、変態みたいなヤローとの闘いで、私の魂魄に、神が宿った」


 真っ赤に腫れる。


「神化とかいう変身技を会得した件か? 話には聞いているが、使い勝手は悪そうじゃないか! 特定領域内でしか使えない限定的な覚醒技……正直、魅力はあまり感じないな!」


 内出血で青くなる。


「……違う。そうではない。神化はもっと、エゲつない覚醒技で……いや、そんなことは、今、どうだっていい。存在値がどうとか、そういうくだらない話じゃないんだ」


 血がこぼれる。


「がはは! 『実際に存在値が増減するか否か』の方が、存在しない神についてどうこう話すよりも、よっぽど有意義だとワシは思うがなぁ!」


 肉が裂ける。


「……私の力が増大したコトなど、神の尊さの前では微々たるもの。いや、その安い事実すら、本当はどうでもいい。そうじゃない。そうではないのだ」


 骨が砕ける。


「では、なんだという? お前がワシに伝えたいことはなんだ? 現状だと、さっぱり、要領をえない」


 ――そこで、

 マリスは、握りしめていた拳をほどいた。


 何度となく殴り合って、

 拳も腹も激痛が走っているが、

 しかし、ここで殴る手を止めたのは、

 決して、『痛み』が理由ではない。


「……あの日まで、私は、自分一人で立っている気になっていた」


 まっすぐな言葉。

 真摯な眼差し。


 だから、カンツも殴る手を止めて、

 まっすぐに、マリスと向き合う。


「……しかし、違った。違ったのだ。我々の命は、この上なく尊き主の愛に支えられていた。私たちはずっと、主の深き愛と共にあったのだ」


「気色の悪いことを言うな! ワシはワシ一人で立っている! ワシはワシの命に対して、『誰にも任せるワケにはいかない責任と覚悟』をもって生きている!」


 カンツは、貫くような視線で、


「ワシは神のおかげで生きているワケではない!」


「……私も同じように思っていた。そして、それが勘違いだと気づいたのだ。主が全ての弱い命の代わりに、重たい絶望と向き合ってくれていたから、私たちは、呑気に生きていられたのだ」


「呑気だと?! ワシが積んできた地獄を愚弄する気か、小僧!!」


「……気づけてすらいない! 本当の絶望にも! 本当の地獄にも!」


「確かに、聖典に書かれているような絶望は知らん! だが、だからといって、ワシが積み重ねてきたものをバカにしていい理由にはならんだろうがぁ!」


「……バカにしているのは、あんただろう! あんたが、今、ここで自由に叫んでいられるのは、主が、世界を救ってくださったからだ! その事実を理解してすらいないくせに、あんたは、主を『くだらない』と侮蔑した!」


「センエースという概念そのものを嘲弄したわけではない! 『聖典教』的な物事の考え方・捉え方がくだらないと言っているのだ!」


 そこから、カンツは、丁寧に言葉を紡いでいく。


「ワシにいわせれば、センエース至上主義は、むしろ、酷い『甘え』だ! 『何もかも全て神のおかげ』という考え方は、見方をズラせば『何もかもすべて神まかせ』という責任放棄にもなりうる!」



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