9話 『ニョグタ』VS『カンツ』

 9話 『ニョグタ』VS『カンツ』


 ニョグタから飛び出た『想定外の回答』を耳にしたカンツは、

 普通に首をかしげて、


「……いや、ちがいますけど?」


 と、疑問符だけを口にする。


「ワシはカンツだと言っとろうが……というか、貴様、なぜ、『センエース』を知っている? 事前調査の結果によると、この世界に、『センエース』という偶像の伝承はないはず」


「詳しくは知らない……しかし、記憶の片隅に、デジャブのようにのこっている。圧倒的な、力の化身……世界を喰らいつくす、運命の暴君……」


 ――その記憶は、ループの残滓。

 99回も繰り返してきたがゆえの残り香。


「そんなものは、単なる妄想だと思っていたが……納得だ……貴様の力は……命の王を名乗るに値する……」


「違うと言うとろうに、人の話を聞かんやっちゃなぁ! まあ、ワシも他者の話をまともにきかない系の人間だから、文句を言う資格はないんだがなぁ! がはははは!」


 豪快に笑うカンツに、

 ニョグタは、


「世界の深淵と向き合う闘神センエース……それほどの化け物が相手ともなれば、ハンパは許されない。私の全てをみせよう」


 そう言うと、

 ニョグタは、自分の胸に、ズブリと、腕を沈ませた。


 そして、強く、心臓を握りしめて、


「センエースよ……見るがいい。これが、本当の私だ」


 そう宣言すると同時、

 ニョグタの全身が発光する。


「私を構成する自我の大半をささげる。未契約時限定の時限強化。ただ一度しか使えない覚悟の表明。これより、私は、私ではなくなる。ニョグタという命ではなく、ニョグタという兵器となる」


 ニョグタは寂しげに、


「……そうなることを望むわけではない。私は私という個でありたい。しかし、センエースが相手ともなれば、ワガママを言ってはいられない。だから、決意を賭そう。私の全てを懸ける。私は私をささげ、真の私となる」


 虹色のオーラが圧縮されていく。

 命がまたたく。


 際限なく大きくなっていくニョグタのオーラを目の当たりにして、

 カンツは、


「おお、まだ膨らむのか……」


 目を輝かせた。

 決意と覚悟に彩(いろど)られた命の輝きは、

 いつだって、カンツの胸を打つ。


「ワシをセンエースだと勘違いする、そのポンコツぶりは笑えるだけだが、しかし、貴様のオーラ総量だけは、畏怖にすら値する!」


 言いながら、

 カンツは武を構える。


「大きいなぁ! 大きいぞ、ニョグタ! 三至以外で、それほどの大きさを見たのは初めてだ! 強いのか?! 強いんだろうなぁ!!」


 新発売する『期待の大作』を前にしたゲーマーのように、

 胸を躍らせるカンツ。


 そんな彼に、ニョグタは、


「――さあ、センエースよ。私の全てを受け止めてくれ」


 そう言うと、

 迷いなく、

 カンツの懐に飛び込んだ。


 鮮やかに、美しく、

 純粋の兵器のように、冷徹に、


 ニョグタは、カンツを壊そうと軽やかに舞った。


 暴力は昇華され、

 命の華が萌(も)ゆる。


 音が結晶になる。

 流れゆく時間が、

 まるで、質量のある残像みたいに、

 奇妙な陰影を残しながら、

 ほんのりと、いびつなザラつきを残していた。


 ケイデンスが上がっていく。

 際限なく。

 無造作に。


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