53話 言い訳。

 53話 言い訳。


「金庫に入れていた金品のいくつかを、玄関に置いてあります。それをテキトーに持っていってください。全宮ルルには、盗まれたと報告しておきますので」


「あれぇ? もしかして、私たちがくるって知ってたぁ?」


「ブラツクーロさんから聞きました。『何も聞いていないことにして、テキトーに演技をするように』と指示を受けましたよ」


「じゃあ、バラしちゃダメじゃない?」


「もちろんダメですよ。それに、さっきまでは、まじめにやろうとも思っていました。ですが……」


 そこで、神妙な面持ちになり、

 天を仰ぎながら、重たい過去を振り返るような口調で、


「……あなたと話していたら、いろいろとメンドくさくなってしまいました」


 と、ダメ人間大爆発な発言をしてから、


「それに……」


 と、さらに続けて、


「昨日の酒も抜けていませんし、朝食のトーストも焦がしてしまいましたし、なんだかカゼ気味で、ちょっと頭も朦朧としていますし」


 と、自身の不幸を数えながら、


「……そういう諸々が重なった結果、『もう、いっか、メンドくさいし』という感情の暴走が、私の脳内を駆け巡っていきました。というわけで、あなたたちのことはテキトーに流させていただきます」


「あははぁ。こういうところにも、ザコーくんがいない弊害が、しっかりと出ているねぇ」


「そうですね。今回の件も、ザコーさんに言われていたなら、ちゃんとこなしていたと思いますが、ブラツクーロさんの指示だと、どうも、途中で『ま、いっか』と思ってしまうんですよねぇ」


 耳をすまして二人の話を聞いていたボーレが、

 そこで、ボソっと、


「どうやら、結局のところ、最初から、ゴキには話が通っていたみたいだな」


 とつぶやくと、

 となりのゲンが、


「ま、そりゃそうだよな……ただ、状況的に、それだけは絶対に、俺達には言っちゃいけないけどなぁ」


 と、そこで、

 ケムスが、


「僕がくる意味はなかったみたいだね」


 そう言いながら、警戒心を解くと、

 続けて、他のメンバーも臨戦態勢を解いた。


 その様子を尻目に、

 チャバスチャンは、


「私はこれから、少し用事があるので出かけます。掃除するのが面倒なので、本当に、家は荒らさないでくださいね。もし、帰ってきた時、家の中が、少しでも汚れていたら、一人、一人、暗殺していきますからね」


 そう言い残して、

 去っていこうとするチャバスチャンに、

 ロコが、


「待ちなさい」


 と、そう声をかけた。


 立ち止まって、

 ロコの目を見つめてくるチャバスチャンに、

 ロコは、


「おそらく、『ルル叔母様からの依頼内容』の中には、『今日、ここにやってくる学生を痛めつけろ』という項目も含まれているのでしょ?」


「ええ、そうですね。『全力で暴れろ』と指示は受けております。特に……」


 と、そこで、アモンとIR3に視線を向けて、


「そちらの二人は、徹底的に追い詰めていけ、という指示を受けました。けれど、想像していたよりも、ずっと強そうですから、正直、任務放棄してよかったなぁ、とホっとしております」

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