54話 めんどくさいですねぇ。


 54話 めんどくさいですねぇ。


「そちらの二人は、徹底的に追い詰めていけ、という指示を受けました。けれど、想像していたよりも、ずっと強そうですから、正直、任務放棄してよかったなぁ、とホっとしております」


「私たち全員を、あなた一人で相手するつもりだったの?」


「いえ。一応、『アプソロ』さんと、『オージー』さんが助っ人で来てくれる予定でした」


「……『でした』? それって――」


「あの人たちは、現在、音信不通です」


「音信不通? 何か、事件にでも巻き込まれたとか?」


「いえいえ、どうせ、あの人たちも、途中で、『ま、いっか』となった感じでしょう。いつものことです」


「……」


「明日あたりに電話をすれば、おそらく、二人とも、当たり前のように電話が繋がって、」


 『ごめーん、ずっと充電切れていてさぁ。昨日は、いけなくて、ごめんねー。ちょっと、道で、お婆ちゃんが倒れててさー』


「という返事が返ってくるでしょう」


 チャバスチャンの話を聞いて、

 ボーレはしぶい顔をして、


「……俺、将来、偉くなっても、ゴキにだけは仕事を頼まねぇ」


 とつぶやいた。


 その意見に同意しつつ、

 ロコは、


「あたしたちは、全員、それなりに強いという自覚がある。けれど、さすがに、ゴキのメンバー3人を相手にしていながら無傷はあり得ない」


「まあ、実際に戦っていた場合、何人かケガをしていたでしょうね」


 と、頷きながらそう言ってから、


「で? それがなにか?」


 と、キョトン顔で首をかしげながら、そう言ったチャバスチャンに、

 ロコは、


「このまま帰ったら、何もしていないのがバレると言っている!」


「じゃあ、あなたたちで、テキトーに、殴り合ってから帰ればよろしいのでは?」


 と、そこで、ロコは、

 キっと、視線の力を強めて、


「あたしの叔母は、そんな安っぽい嘘が通じるほど、節穴じゃない。……それに、詳しい事情は言えないが、こちらにも少し事情がある。悪いけれど、もう少し、付き合ってもらう」


「ふむ。……で、具体的には何をしろと?」


「こちらから一人、選出するので、その者とタイマンで戦ってもらいたい」


「……めんどくさいですねぇ……」


 ため息をつきつつ、

 そう言ってから、

 少し強い目で、

 ロコを睨み、


「言っておきますが……ブラツクーロさんから、『学生は一人も殺すな』と言われてはいますけど、現状、その指示に従う気は、一切なくなっていますからね。やるなら、殺しますよ」


 そこで、チャバスチャンは、

 両手にオーラを集めて、

 それを見せびらかすように、


「今から、私がどこに行こうとしているか教えてあげましょうか? 先ほど、隙だらけのあなたたちの背中を見て、殺意と嗜虐心が燃え上がってしまったので、これから、テキトーな獲物を狩りにいこうと思っているのですよ」


 そう言ったチャバスチャンの目は普通にイカれていた。

 口調は丁寧で、身なりも整っていて、

 パっと見は、まともそうに見える。

 だからこそ、よけいに、彼の異常性は際立つ。


 チャバスチャンは、それを理解している。

 理解しているから、実行している。

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