51話 チャバスチャンとヤマト。

 51話 チャバスチャンとヤマト。


「――では、殺してさしあげましょうか?」



 背後から急に声がして、

 ボーレとゲンとケムスとロコの四人は、

 反射的に両足に力を込めて、

 バッっと、地面を蹴り上げ、

 振り返りながら、全力で距離をとる。



 すると、そこには、

 高身長で執事服のイケメンが、

 ニコヤカな笑顔を浮かべていた。


 そのイケメンは、

 距離を取らなかった『3人』の内、

 『2人(アモン&IR3)』に視線を向けて、


「度胸がありますね。いきなり背後を取られたら、普通は、驚くなり、逃げるなりするものだと思いますが」


 などと言われて、アモンは、


「いきなり背後を取られたら、もちろん、驚くさ」


 と、挑発的な言葉を返されて、

 執事服のイケメン――チャバスチャンは、


「ずいぶんと口が達者なお坊ちゃんですね。壊し甲斐がありそうです」


「あんたに壊されるほど、僕は脆くないさ」


「本当に、素晴らしい度胸ですね。大変、結構」


 そう言ってから、

 チャバスチャンは、

 ヤマトに視線を向けて、


「久しぶりですね、ヤマトさん」


「そうだねぇ、一年ぶりだねぇ」


 チャバスチャンは、

 ヤマトの顔をジっと見つめ、


「ザコーさんから聞きましたよ。本当に女になっていますね。一瞬、わかりませんでしたよ」


「でしょう? なんだか、体つきが、どんどん、女性らしくなっていくんだよねぇ。この胸とか、ほんと邪魔。正直、男の体の方が楽だから、戻りたいなぁって思うんだけどねぇ」


「戻りたいなら、また完全院リライトに呪いをかけてもらえばいいのでは?」


「いやぁ、ちょっと事情があって、そういうわけにもいかないんだよねぇ」


「……事情ですか。ちなみに、どういう事情かお伺いしても大丈夫ですか?」


「神様的には、私は女である方がいいんだってさぁ。理由はわからないけれどねぇ」


「……はぁ? 神様?」


「そう。実は、私ねぇ、神様にあったんだよぉ。すごかったよぉ。ランク3000の魔法とか、バンバン使ってきてねぇ。世界の終焉がチカチカと、お空の向こうで虹色の渦をまいて――」


「ああ、もう結構。よくわかったので、もう大丈夫です、ほんとに」


 ヤマトの電波発言に慣れているチャバスチャンは、

 『理解しようとする気概』をハナから一ミリも見せず、

 心底ウザそうな、辟易した顔で、ヤマトの言葉をぶったぎる。


 そんな彼に、ヤマトは続けて、


「ちなみに、チャバくん的にはどう? 私は男の方がいい? 女の方がいい?」


「……どうでもいいです。ほんとうに、ほんとうに、どうでもいい」


 切り捨てるようにそう言うと、

 チャバスチャンは、

 ゴホンと、大きめのセキをはさんで、


「ところで、ヤマトさん。ザコーさんが、今、どこにいるかご存じですか?」


「ん? なんで、私に聞くのぉ?」


「最後にザコーさんと会ったのが、あなただからですよ。ヤマトさん」


「ほえ?」


「実は、ここ一年ほど、私たちは、ザコーさんに、一度も会っていないのです。ごくたまぁに、電話やメールはくるのですが、それっきりで」


「えぇ? じゃあ、ゴキとしての活動はぁ? ザコーくんいなかったら、いろいろと、面倒なんじゃない? 全宮家と、ちゃんとつながっていたのは、ザコーくんだけだったしぃ」

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