19話 むかしむかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんが……

 19話 むかしむかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんが……


(あなたの勝利は絶対じゃない。あの子供の『目』は、あなたの強さを目の当たりにしていながら、しかし、わずかも折れなかった。おそらく、まだ切り札を隠しもっているのだろう)


(何をしてこようと、絶対に勝てる。僕はゼノリカの――)


(自己紹介はいらない。あなたが誰かは知っている)


(なら、邪魔するな!! 僕が、負けることはありえない!)


(今、大事なことは、あなたが気持ちよく勝つこと? それとも、確実に、試験に合格すること?)


(……っ)


(正々堂々戦って勝ちたいという『自分勝手な欲望』は、入学後の再戦で叶えろ。そんな『クソどうでもいい欲望』を、今、この場で、満たそうとするな)


(……)


(見失うな、目的を。そんなんだから、あなたは、ここにいるんだ)


(……このっ……)


 と、場が混沌としてきたところで、





「……随分と、おかしな状況になってきているわね」





 IR3の背後から、

 巨漢のオバサン――『全宮ルル』が、

 ゆっくりと近づいてきて、

 眠気に殺されかけているゲンを睨み、


「……『受験生相手に後れを取ることなんてありえない』……そう大見得を切っていたくせに、いいザマね」


 パチンと指を鳴らしながらそう言った。


 すると、


「……ぷはっ」


 ゲンを襲っていたデバフが全て解除される。


 自由になってすぐ、

 ゲンは、ルルの目を見て、


「いやいや、いやいやいやいや! ルル様! 俺が言ったのは、『普通の受験生』に後れを取ることはないってことで、このガキみたいな、異常なヤツは例外ですよ! つまり、ノーカン! 圧倒的ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン!」


 『何事にも例外はある』、

 ゆえに『今回の件はミスとしてカウントされない』

 という世界の真理を、

 必死になって訴えかける。


 その様子を見ていたIR3は、

 ルルを睨みながら、


(このオバサンが全宮ルル……私の魔法を全て一瞬で解除するなんて……なるほど、確かに、5大家の人間は、少し格が違うらしいわね……)


 心の中でつぶやいていると、


 ルルが、射貫くような目で、

 アモンを見つめて、



「――確かに、この子の強さは異常ね。例外であると認めるわ」


「ですよねー!」


 と揉み手をしながら笑顔を浮かべるゲン。


 そんな彼を豪快にシカトしつつ、

 ルルは、

 意味深な間を置いて、

 強い目で、アモンの目を見つめながら、




「あなたいったい、何者?」




 核心をつく質問を投げかけた。 

 ルルの問いに対し、

 アモンは、



「……僕は捨て子なので、自分が何者かは知りません」



 と、まるで、『台本通りのセリフ』でも諳(そら)んじているかのように、

 ひどく淡々と、


「エリアEのはずれにある山で捨てられました。物好きなジイサンに拾われたので、どうにか、一命をとりとめ、今日まで生き延びることができました。闘い方は、その物好きなジイサンに教わりました。ちなみに、その物好きなジイサンはすでに死んでいます」


「なるほど面白い出自ね」


 そう言いながら、ルルは、IR3に視線を向けて、


「ちなみに、あなたは? どういう出自?」


「私も捨て子です。エリアDのはずれにある川に捨てられました。物好きなおばあさんに拾われたので、どうにか、一命をとりとめ、今日まで生き延びることが出来ました」


「ふふ……そう。大変だったわね」

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