18話 煽り耐性が低い坊ちゃん。

 18話 煽り耐性が低い坊ちゃん。


「10分経過まで、残り9分30秒……制限時間が短いなぁ。こんなに短い時間で君を倒せるか不安でたまらないよ」


 などと言いつつ、

 両手の関節をボキボキならし、

 ゆっくり、ゆっくりと、距離をつめるアモン。


(うわぁ……ブチ切れてらっしゃる……煽り耐性が低い坊ちゃんだこと……)


 このままだとヤバいと認識したゲンは、


(しゃーねぇ……エグゾギアを使うか……)


 そう決断し、

 エグゾギアを起動させようとしたところで、


(……あれ? 口が……)


 しゃべれないという事に気づく。

 『口を開くこと』はできるのだが、

 一言も言葉を発することが出来ない。


(口封じをくらった……いったい、いつ……まったく気づかなかった……)


 さらに、ゲンは気づく。

 くらったのは、口封じだけではないということ。


(耳もちょっと聞こえ辛ぇ……視界もじゃっかん、暗くなってきた……)


 五感に対するダイレクトアタック。

 デバフ専門の後衛職が好む魔法。


(足も重てぇ……やべぇ、やべぇ、やべぇ……いつのまにか、めちゃめちゃデバフをくらってる……)


 ちなみに、

 ゲンにデバフをまいているのは、

 『IR3』だった。


 ひそかに、バレないように、

 鮮やかに、見事に、

 アモンのサポートをしているIR3。


 そのことに気づいたアモンが、

 通信の魔法で、


(……なんのつもり? IR3)


 そう問いかけると、


(保険。この試験で、あなたが落ちると計画が狂う。この程度のミッションで失敗の報告など出来ない。だから、援護する。私が援護すれば、100%、10分以内に倒せる)


 と、答えるIR3。


(いらない、やめろ。あんたの手伝いがなくても、勝率は、最初から100%だ。その程度のこともわからないのか、節穴)


 強い言葉を投げかけられて、

 IR3は、普通にイラっとしたのか、


(一つだけ言っておく。私に命令するな。あなたに、そんな権限はない)


 強い言葉で返す。


 闇人形の黒いオーラには、

 泣く子も黙る威力がある。


 ――が、アドレナリン全開のアモンは、

 いっさい怯むことなく、

 むしろ、語気を苛烈に、


(これは、タイマンの試験だ。あんたが茶々を入れているとバレたら失格になる。だから、やめろと言っているんだ、バカ野郎)


(バレるようなヘマはしない。百済の闇人形をナメるな、クソガキ)


 会話をしている間も、

 IR3は、デバフの手を緩めない。


 凶悪なデバフの連鎖をくらったゲンは、



(も、ものすごい眠気……や、やばい……)



 その場に崩れ落ちる。

 止まらない眠気と必死になって戦うが、

 その間にも、


(頭、クラクラする……)


 眩暈と頭痛に襲われる。


 サイコジョーカーほど強烈な負荷ではないが、

 ジンワリと深く、体に浸透してくるデバフ。



 その様子を横目に、

 アモンは、


(とにかくやめろ。不快だ。何度でも言うが、あんたの手を借りなくても余裕で勝てる。あんなガキ、その気になれば、10秒以内に殺れるんだ)


(そんなことは知っている。あなたの方が、あの子供よりも強い)


 IR3は、そう前を置いてから、


(けれど、あなたの勝利は絶対じゃない。あの子供の『目』は、あなたの強さを目の当たりにしていながら、しかし、わずかも折れなかった。おそらく、まだ切り札を隠しもっているのだろう)


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