79話 早熟の秀才。

 79話 早熟の秀才。


「どんどん花開く……本当に感謝するよ。お前との闘いで、俺は大きく開いた。お前が強かったから、俺はこのステージに辿り着くコトができた。心から感謝する」



 そんなゲンの言葉を受けて、

 ケムスは、強く歯ぎしりしながら、




「あああああああああああ!!」




 叫びながら、

 地面に向けて、全力で剣をブン投げる。


 カアアアアアァァァ……ンッッッ!!


 と、鋼が反響する音だけが、

 一瞬、世界の全てになった。


「はぁ……はぁ……」


 息を荒くしたのちに、

 消え入りそうな、小さな声で、



「なんで……どうして……君ばかり……」



「ん? 何か言ったか?」




「僕の剣は閉じたのに! どうして、君は際限なく強くなる!! おかしいだろう!」




 響き渡る悲鳴。

 身を裂くような叫び。


 ケムスの慟哭を受けて、

 ゲンは、渋い顔で、



「――『僕の剣は閉じたのに』……ってのは、どういう意味だ?」



 問いかけに対し、

 ケムスは、


「……っ」


 『しまった』と言いたげな、

 バツの悪そうな顔で、

 クイっと、顔をそらした。


 自分の発言を心底悔いている表情で、


「……な、何も言っていない……僕は……何も……」


 後悔に震えているケムス。


 そんな彼女を横目に、


「そういえば、これまで、あんたは、執拗(しつよう)に、俺のことを、『早熟の秀才』と表現していたよな」


「……」


「……秀才だの、天才だのって『区分』に対して、妙に『こだわっている』なぁ、と思っていたが……」


「……」


「なるほど。ようやく理解できた。あんたは、『自分』の事を『早熟の秀才』と認識しているのか」




「……違う……」




「もしかして、あれか? 今のあんた、すげぇ伸び悩んでいるのか? それで、自分に自信が持てなくなって、ちょうどそのタイミングで――」


「違うと言っている!!」


「ムキになるなよ。もし、俺の推察が見当違いの戯言だったのなら、鼻で笑って流せばいいだけだろ?」


「……」



「はは、無様だな。つぅか、愚かしい」



 と、ゲンが笑うと、

 ケムスは、



「……な、なにがおかしい……」



 鬼のような顔になって、

 体を小刻みにふるわせながら、

 全力でゲンをにらみつけ、



「閉じた世界に生きる者の気持ちが君にわかるか? 明日を見失って、『終わらない今日』に迷う者の悲痛が、君に……わかるか……」



 吐血するように、


「血反吐が枯れるまで剣を振った……毎日、己の限界に挑戦した……一時間を、一分を、一秒を、大事に、大事に抱きしめて……けれど、何も変わらない……僕の剣は限界に達してしまった……どれだけ積んでも、僕は……僕は……」


 へたりこんで、両手で頭をかかえるケムス。


「どうしてだ! なんで止まってしまったんだ! 僕より強い者は、まだまだたくさんいる! クリムゾンスターズのリーダーには手も足も出なかった! 五大家の成人と比べれば、僕など、足元にも及ばない! 今の僕が『人間の限界』でないことはわかっている! だから、必死に積んできたのに! どうして! なんで!!」


 地面を何度も殴りながら、

 よだれと鼻水を垂れ流し、


「……ただの早熟……ただの秀才……僕は……」


 かすれた声で、

 うなだれたまま、



「……天才じゃなかった……」

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