78話 どんどん花ひらく。
78話 どんどん花ひらく。
遅れてやってきた激痛。
ケムスは、涙をこらえながら、
剣を後方に投げながら、
右手で、吹き飛んだ左腕を、掴み、
そのまま、剣を投げた方へと高速のバックステップ。
地に突き刺さった剣の影に隠れて、
回復魔法で、左腕をくっつけようとする。
その様子を見たゲンは、
ケムスの腕を切り飛ばした直後の美しい残身のまま、
「くっつきそうか? 難しそうなら、手をかすけど?」
そんなナメた発言に対し、
ケムスは、顔を真っ赤にして、
「弱者の情けなど受けるか!」
そう叫びながら、
切断面に、大量の魔力を注ぎ込んでいく。
『回復魔法が得意』というわけでもないが、
決して苦手というわけでもないので、
綺麗に切断された腕を接着させる程度ならば、
そこまで難しくもない。
10秒ほど経過したところで、
ケムスの腕は元通りになった。
と同時、
ケムスは、地にささっている剣を引き抜き、
ゲンをにらみつけ、
「……なぜ、今のスキに追撃してこなかった? ナメているのか?」
「ああ、ナメている」
「……な、なんだと……」
「今日を経て、俺は一歩、高みに至った。俺はもう、あんたの上にいる。感謝するよ、ケムス。おかげで、俺の世界が広がった」
「……たかが、一度、腕を切り飛ばした程度で、よくもまあ、そこまで増長できるものだと、むしろ、逆に感心しているよ、バカガキ」
「あんたは強いよ、ケムス。才能も努力も一級品。本物の天才。それは間違いない。けど、どうやら、俺の可能性は、そういう次元を超えちゃっているらしい。簡単に言えば、強くなりすぎてしまったってやつだな」
などと言いながら、
ゲンは、自分の両手を見つめ、
「俺の器は、俺の予想を超えていた。あんたに『剣だけで勝てる日』は、もっと先だと思っていたのに……俺はもう、あんたを超えてしまった……」
頭の中が沸き立つ。
「俺の資質は、もっと低いものだとばかり思っていた……けど、どんどん花開く……止まらない……今も、この時も、俺の全部が、開いていくのが分かる……『必死で積み重ねてきた土台』が……『弛(たゆ)まず磨き上げてきた基礎』が、驚くほど力強く、俺の全てを支えてくれている」
言いながら、ゲンは、太刀を構える。
「まだ『俺の可能性』を疑うというのなら、もっと、もっと、むき出しになって、かかってこいよ。そうすればわかるよ。もう、俺は、あんたの届かないところにいるってことに」
「……いい加減にしろよ……不快だぁ!」
踏み込み足に雑念が生まれたのは、
ケムスが『無能な愚者』ではなかったから。
理性では拒絶していても、
本能が理解してしまったから。
――ゲン・フォースは、ケムス・ディオグよりも高い資質を持つ。
(ふざけるな……ふざけるな……ふざけるなっ!)
「妙な雑念に振り回されているな。キレが悪くなっている。そんな雑味たっぷりの剣が俺に届くことはありえない」
軽やかに、いなされて、
ケムスは、体勢を崩し、
その場にズサァっと倒れこむ。
「……ぐっ……うっ……」
痛みなどないが、
しかし、悔しさのあまり、体が震える。
そんなケムスの姿を見下ろしながら、
ゲンは、
「どんどん花開く……本当に感謝するよ。お前との闘いで、俺は大きく開いた。お前が強いから、俺はこのステージにくることができた。心から感謝する」
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