56話 調教してやる。

 56話 調教してやる。


「素晴らしい。座視できないスピード」


 賞賛を述べつつ、

 ゲンの攻撃をギリギリのところで回避する。

 あえてギリギリにしたのではなく、

 実際に、ギリギリだった。


「とんでもない上昇率。ラージャンは『憤怒モードからが本番』とはよく言われているが……しかし、ここまで上がるのも珍しい。非常に高いシンクロ率。貴様のポテンシャルには、本気で感嘆せざるをえない」



 0000000000000000000000000000000000000


 『ラージャンゲン・憤怒モード』


 「攻撃力」       【95000】

 「魔法攻撃力」     【53000】

 「防御力」       【0】

 「魔法防御力」     【0】

 「敏捷性」       【280000】

 「耐性値」       【0】

 「バリア再生力」    【0】

 「魔力回復力」     【0】

 「反応速度」      【230000】


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「それだけの強さに至って、まだ、本来の力を微塵も発揮できていないというのだから、空恐(そらおそ)ろしい話だ」



 などと口にしているセイバーリッチ・プチの視線から、

 ゲンの姿がフっと消えた。


 一瞬、本当に、完全に見失う。


(緩急っ……いや、瞬間移動がヘタくそすぎて予測が切れたのか……鬱陶しい……どこだ……)


 蚊を目で追っていると途中で見失ってしまう現象。

 アレに酷似しているのが現状。


 動きに『思考』がついてきていないせいで、

 逆に予測がし辛い状況。


 『配球にのっとって丁寧にコントロールされた球』よりも、

 『メチャクチャな荒れ球』の方が、

 まったく予測できなくて、打ちにくいという原理にも似ていた。




「ぐあばっ!!」




 死角からの強烈な一手を受けて、

 セイバーリッチ・プチは豪快に吹っ飛ぶ。


 吹っ飛んでいこうとする、その足を、

 ゲンは、

 片手で、ガシっと、粗雑に掴み取ると、


「ふんぬらば!!」


 そのまま、地面に向けてたたきつける。

 戦術もクソもない、たんなる荒々しい暴力。


「ぐぅ! がぁ!!」


 悲鳴をあげるセイバーリッチ・プチに、

 ゲンは、しかし、手をゆるめることなく、



「だぁああありぁああああああ!!」



 両足を強くふんばり、

 両手で力いっぱい背負い投げ。


 そのまま、馬乗りになって、


「うら、うら、うら、うらぁあああああ!!」


 計算もクソもない拳を無数に打ち付ける。

 とにかく、荒々しく、

 ただただ、力強く、


 力こそパワーだと言わんばかりの勢いで、

 ひたすらに、セイバーリッチ・プチをボコボコにするゲン。


 そんな、ガキのケンカみたいな攻撃を受けたセイバーリッチ・プチは、

 その『安っぽさ』に対する怒りをあらわに、


「いい加減に……しろぉ!!」


 口内に集めた魔力とオーラをバーストさせて、

 特に名称のないゲロビを、ゲンに向かって吐き出した。


「どわぁ!」


 そのあまりの圧力に、

 ゲンはドバっと吹っ飛ばされる。


 空中で停止して、

 キっと、視線をセイバーリッチ・プチに向けるが、

 しかし、


(セイバーがいねぇ……どこに――)


 姿が消えたセイバーリッチ・プチの行方を、

 高速の眼球運動で探そうとした、

 と同時、


「暴れるしか能のない愚劣な獣に……調教を施してやる。格の違いを思い知れ」


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