55話 パーフェクトラージャン・プチ(憤怒モード)。

 55話 パーフェクトラージャン・プチ(憤怒モード)。


「まず、俺に積む時間をあたえるべきだ! それが世界の道理! 真理とも言えよう! というわけで、100年くれ! 100年もあれば、あんたと向き合える力を得られなくもない気がしなくもない! たぶん! いや、きっと!」


 ゲンのおしゃべりは止まらない。


「あ、いや、でも、100年だとちょっと厳しいかも! もう一言! よし、1000年にしよう! そのぐらいあれば……いや、まだ不安だな……よし、ここは1万年にしていこう! これでハンマープライス!」


 などと、勝手なことをゴチャゴチャわめいているゲン。


 そんなゲンの発言を完璧にシカトして、

 セイバーリッチ・プチは、


「聖なる死が瞬(またた)く」


 そう言いながら、

 『死神の剣翼』を広範囲に展開させていく。


「……おい、イケメン。なに、物騒なものを展開させているんだ。モチつけ。大丈夫だ、俺は怖くない」


「怖いさ……多少は、な」


「おい、あんた、わかってんのか? そんな危なそうなモノを、俺ごときに使うなんて、末代までの恥だぞ。いいのか、後世にまで汚名が残っても。俺はいやだなぁ。セイバーリッチには、常に、一貫して、かっこいい存在でいてもらいたいなぁと、俺なんかは切に願う次第なワケだったりもしないでは――」


「――踊れ、死の翼たちよ」


 ゲンの妄言をブッタ切って、

 セイバーリッチ・プチは、

 死神の剣翼をきらめかせる。



「どわぁ! どわぁああああ!!」



 四方八方から迫りくる死の剣を、

 慌てふためきながら、全力回避するゲン。


「ちょっ、ちょ待っ――ヤバイって! ヤバイってぇええ!」


 回避できたのは、

 集中反射による緊急回避が保てた最初の数秒だけで、


「いぐぃっっ!!」


 一度歯車が狂えば最後、

 ゲンの全身は、死の剣によって、

 メッタ刺しにされてしまう。


「ぶへっ……ごほっ……」


 大量の血を吐き出すゲン。


 大ダメージ。

 HPバーが一気に削れた。


「うぐっ……痛ぇ……」


 頭が吹っ飛びそうなほどの激痛。

 その激痛が、ゲンのオーラに触れる。


「……痛ぇんだよ……クソが……痛ぇ……痛ぇ、痛ぇ、痛いぇ、痛ぇ、痛ぇ……」


 すると、グツグツとした熱が、

 ギリギリと、音をたてて燃え上がり、


「今のは、痛かった……」


 ゲンの全身を包み込む。


「痛かったぞぉおおおおおおおおおおおおお!!」


 強烈に膨れ上がった感情。

 『本心』では、特に怒りの感情は沸いていないのだが、

 しかし、パーフェクト・ラージャン・エグゾギア・プチの熱が、

 強制的に、ゲンの頭を燃え上がらせる。



 ゲンのそんな姿を見て、

 セイバーリッチ・プチは、ニっと黒く微笑んで、



「憤怒モードか……さて、どのぐらい上がる?」



 武を構えて様子見。

 堅(けん)の姿勢で、ゲンのムーブを見守る。



「死ね、カス、ごらぁああああああああああ!!」



 知性のない特攻。

 怒りに身を任せた暴力の暴走。


「素晴らしい。座視できないスピード」


 賞賛を述べつつ、

 ゲンの攻撃をギリギリのところで回避する。

 あえてギリギリにしたのではなく、

 実際に、ギリギリだった。


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