10話 いとおかし。

 10話 いとおかし。


「……試しにちょっと入ってみるか……出入口付近でウロウロして、ヤバくなったらすぐに逃げるスタンスで……」


 などとつぶやきつつ、

 ゲンは、『チョコネコのもっと不思議な館』に足を踏み入れた。



(広いな……)



 最初の階層は、ワンフロアになっており、

 非常に見通しがいい。


(出口は開きっぱなし……これなら、なにかあっても、すぐに緊急離脱できる。最悪の時は、全てを投げ出して、全力で出口に逃げ込む……)


 背後の扉を後目に、心の中でそうつぶやいていると、


「……ん?」


 バチバチっと音がして、

 フロアの中央にジオメトリが出現した。

 そのジオメトリは、青く、白く、輝くと、

 一体の真っ白な鎧をまとう騎士を排出した。


 その姿を確認したゲンは、


(ワンダーナイトか……)


 教科書で見たことがある上位のモンスターだった。


(上級の霊種。武器は長剣。魔法を得意とし、最大でランク6を使う。魔法系の資質が高いが、魔法使い系ではなく、攻撃力と防御力も高い汎用性抜群の魔法戦士型。耐性も高く、状態異常の通りは悪い。……霊種だが、対策をしても無力化できるわけじゃなく、際立った弱点がない。オールラウンダーで高性能。言い方を変えれば器用貧乏)


 教科書に書いてあったことを思い出しながら、

 ゲンは剣を抜く。


(存在値は50~70……『天才型(個体値MAX)』になると80近いやつもいるらしいが、基本的には60前後……)


 魔力を高め、オーラを充実させる。


(きわめて高性能なモンスターだが……搦(から)め手をバンバン使ってくるタイプじゃねぇ。使える魔法も、攻撃系と回復系で、特有の対処や立ち回りは必要じゃない。勝利には『地力』が求められる相手。つまりは、慎重に戦えば普通に勝てる相手……)


 分析は終了。

 ゲンは深呼吸をはさみ、


「ダギーやアギトと比べれば、話にならねぇぜ」


 そうつぶやいてから、足に力を込めた。


 まっすぐ突進。


 ワンダーナイトは、そんなゲンとまっすぐに対峙する。

 搦め手はなし。

 真っ向勝負。


「うらぁあ!」


 ゲンの剣がきらめく。

 ワンダーナイトは、鮮やかにさばきながら、

 右手に魔力を集中させて、

 流れのままに、


「――光撃ランク6」


 光属性の衝撃魔法を放ってきた。


 ゲンは、冷静に対処をし、

 光撃の効果範囲から緊急離脱。


 魔法が発動するまでのタイムラグの認識もバッチリ。

 計算通り、ギリギリのところで回避。


(……勉強って大事だよなぁ……)


 『知っている』おかげで、ゲンは、ワンダーナイトと闘えている。

 もし、ワンダーナイトについて不勉強だったら、

 今の一撃だけでも致命傷をくらっていただろう。


 事前に心構えが出来ていて、対処方法を勉強していれば、

 相手が格上でも、どうにか互角以上に戦うことができる。


 『まるで受験みたいだ』なんて、

 そんなことを思いながら、

 ゲンは、


(まあ、そんな相手ばっかりじゃねぇから、臨機応変な対応力も必要になってくるわけだが……)


 魔力を練り直しつつ、

 心の中で、


(出来るようにならなきゃいけないコトは、まだまだ山ほどある)


 呼吸を整えながら、


「あー、おもしろいっ!」

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