俺がその気になれば、どんなバッドエンドも裸足で逃げ出す。

 俺がその気になれば、どんなバッドエンドも裸足で逃げ出す。


『……』


「おい、聞いてんのか? おい、ちょっと? ……あれ、つながっているよな……え、あいつ、切った? ウソだろ……いや、繋がっているなぁ……おい、シューリ?」


 と、シューリの無言に、センが焦り始めたところで、

 シューリは、ギリギリと奥歯をかみしめて、


『……クソがぁ……』


 ブチ切れた声で、そうつぶやいた。


 あまりにも高圧力なその声音を聞いたセンは、

 軽く震えながら、


「な、なんでキレてんだ?」


『……あ? キレてないでちゅよ。オイちゃんをキレさせたら大したもんでちゅよ』


「ぁ、はい……そうですか……」


 古い小ネタに突っ込んでいくべきか、

 少しだけ悩んだものの、

 シューリの言葉の迫力に気圧されて、


「まあ、キレていないのでしたら、それでいいのですが……」


 反射的に、対応が丁寧になってしまう。


 『セン視点』では『奇妙によどんでいる空気(シューリ視点では極めて単純な構図)』。


 それを、いったん払拭しようと、

 センは、そこで、コホンと息を整えて、


「と、とにかく、そういうことだから、あとのことは、マジで頼んだからな」



『――頼む? オイちゃんに? なにを?』



 底冷えする声音だった。

 とても冗談のテンションには聞こえない。


 実際のところ、先の発言は、シューリ視点だと、

 一ミリもボケではない。


 が、セン視点だと、シューリの発言は、

 完全に『クリティカルなボケ』だったため、


「なにを、じゃねぇよ、ふざけんな」


 仕方なく、脊髄反射的に、

 サクっとボケ処理をしてから、

 マジメ寄りのトーンに調整しつつ、


「俺は、色々なことをあきらめて、お前に、ゼノリカを頼むことにしたんだから、この約束だけは、絶対に、なかったことにはさせねぇからな」


 どうにか『流れ』を『ガチ寄り』に調律させようともがくセン。


 ――しかし、

 『例の約束(――『どんな願いでもかなえる』という、シューリが許した『たった一つの譲歩』をゼノリカのために使ったこと)』に付随する『アレコレ(おかげで、相思相愛なのはわかっているのに、関係性が宙ぶらりんのままに留まってしまったこと)』と改めて向き合わされたことで、


 さらにシューリのボルテージが上がってしまい、




『……クソがぁ……』




 声音の圧力に制限がなくなっていく始末。


「だから、なんでキレてんだよ。ここまでにおける俺の発言には、どこにも、一ミリたりとも、キレる要素なんてな――」


『キレてねぇっつってんだろ、殺すぞ、クソガキ!』


「ガンギレじゃねぇか……素を引き出すレベルでお前をキレさせるとは、俺も大したもんだな。どうして、そこまで怒らせてしまったのか、さっぱり理由がわからんから、ちっとも誇れないが」


 セン視点では、ただただ情緒不安定なシューリ。

 そんな彼女に対し、


 センはタメ息を一つはさんでから、

 『ワケわからんけど、とりあえず、言うべきことを言い切っておこう』

 といった感じで、


「とにかく、俺は自殺する。これまでも、何度か『無限転生の殺し方』を探したことがあったが、今日からは、これまでのような『コトのついで』ではなく、『全身全霊』で『無限転生を殺す方法』を探していく。俺がその気になってしまった以上、さしもの無限転生と言えど『お手上げ』だろう。俺を前にすれば、どんなバッドエンドも裸足で逃げ出す」


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