もう……いいよな?

 もう……いいよな?


「……『この日のために生まれてきた』……心の底からそう思える『輝く日々』を積み重ねて、俺は『今日』に辿り着いた。何度目か忘れた誕生日。ハッキリ言える。生まれてきた意味は確かにあった」


 かみしめながら、

 言葉を紡ぎ、


「だから、もう……いいよな?」


 世界に問いかける。

 誰も応えてはくれなかった。


 けれど、寂しくはない。


 いつも通り。

 何も変わらない純粋無垢な孤高。


 誰よりも高い場所で独り、

 命の歌を、神は詠う。

 穢(けが)れを払いつくした『その両手』を見つめながら、

 最果ての丘で、太陽のように笑う。



「シューリがいる。ソンキーがいる。ゼノリカがいる。この世界は、俺がいなくても、問題ない。それが、今日、ハッキリと分かった。――感謝する」


 両の手を、ギュっと握りしめながら、

 すでに消滅してしまった仮バグに向けて、

 感謝の言葉を投げかけてから、


 センは、アイテムを使い、

 シューリに向かって、魂魄の回線をつなぐ。

 ――『伝えなければいけないこと』がある。


 『最後』の責務。

 エンディング・メッセージ。


 己に課す使命は一つ。


 決して、重苦しくならないように。

 さわやかに、誇り高く、

 うたうように、告げようじゃないか。


 と、自分の中で、

 色々と整理をつけつつ、

 魂魄が調和するのを待っていたセン、

 そんな彼の耳に届いた、

 シューリからの最初の言葉は、






『ツー、ツー、おかけになった電話番号は、現在つかわれておりません』






「魂魄を繋げたホットラインで着拒すんなや! いやがらせの質が高すぎるだろ!」


 空気をブチ壊すボケをかまされ、

 センエースの怒号が飛ぶ。


 いろいろ、全部、台無しだった。



『……ちっ。なんでちゅか? オイちゃん、忙しいんでちゅけど』



 心底鬱陶しそうな声を聞かされて、

 センは泣きそうな顔になり、


「第一声も第二声もひどすぎる……」


 メソメソしているセンに、

 シューリは、アクビ交じりに、


『さっさと用件を言ってくだちゃい。三秒以内にいわないと切りまちゅよ』


 イライラ声の催促。


 センは、


「……はぁ……」


 深いタメ息をついてから、


「……今日が何の日か知っているか?」


『今日? ……えーっと……ちょっと待ってくだちゃいね……えっと……確か……アレでちゅよね? うんうん、わかってまちゅよ……ここまで出かかっているんでちゅけど……ほら、あれ……あの……ほら……んー、あー……なんでちたっけ?』


「俺の誕生日だ」


『そうそう、それでちゅ! いやぁ、九割がた出ていたんでちゅけど、最後の最後で、ノドにつっかえちゃいまちたねぇ。いやぁ、はははは。というわけで、さようなら』


「切るな、切るな」


『なんでちゅか? 用件はすでにすみまちたよね?』


「……『今日が何の日かクイズ』で終わるワケないだろ。よしんば、それがメインの目的だったとしても、その先を読み取れよ。クイズの答えが『今日は俺の誕生日でーす』となれば、おのずと、次の展開が読めようものだろうが」


『はっぴ、ばーすでー、でぃあ、つぅうう、ゆぅううううううう……じゃじゃーん。はい、おわり。さようなら』


「その短い歌すら、フル尺ではうたいたくねぇっていう、お前の気持ちは痛いほど伝わってきたが、とりあえず、もう少し、俺に付き合ってくれ」



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