頑固で強欲な神様。

 頑固で強欲な神様。


「その爆発的成長ペースで、あと『200億4999年』と『364日23時間50分』ほど積めば、俺にかすり傷をつけることができるだろう」


 そう言いながら、

 究極超神センエースは、

 バンプティの拳を、

 ペシっとはじいて、

 ガラ空きの腹部に、


「――閃拳――」


 叩き込む。

 おそろしいほど静かに。


 『とてつもなく重たい』のに、

 羽が生えたみたいに身軽な拳だった。


「がはっ……っっ」


 どれだけの言葉で表現しようとしても、

 どこかで必ず『足りない』と思ってしまう、

 そんな、あまりにも遠すぎる高みに位置する無上の拳。


「……と、遠いですね……あなた様は……本当に遠い……」


 すべてを受け止めたバンプティは、

 ボソっと、心からの言葉を並べた。


 魂魄の全てを沸騰させた『10分』を経て、

 だからこそ、余計に、神の遠さを知る。



(これほどの過剰な爆発的成長を、200億年以上、維持しなければ、神の背中には届かない。――それが、神のおわす場所)



 知れば知るほどに遠くなる。

 神は、遠い遠い遠い遠い遠い場所にいる。

 影すら見えない場所。

 しかし、とても、とても、とても大きな光。

 だから、決して、見失うことはない。


 あの光が『目指すべき神』である、

 その理解にさえ達していれば、

 問題は何もない。


「美しい……あなた様の尊さは……間違いなく、命の頂点……」


 そんなバンプティの尊崇(そんすう)に対し、

 センは、遠くを見つめながら、


「積んだだけさ。バカみたいに時間をかけて積んできただけ。友達いねぇし、恋人もいねぇから、自分のために使える時間はたくさんあった。だから、積むことができた。結局のところは、それだけの話さ。コミュ力と人望が死んでいる非モテの童貞。だから、実際のところは、わずかも誇れる要素じゃねぇ。むしろ、最大の汚点ともいえなくはない」


「なぜ、ご自身を悪くおっしゃるのか……あなた様の美しさは……間違いなく、全世界一だというのに」


「心配するな、それは勘違いだ。探せば、俺より美しいやつはたくさんいる。というか、よくみろよ、このみすぼらしさを。考えなしに走り抜けてきたから、あちこち、擦り切れて、ボロボロだ」


「本物である証……抜け道を通ってきたわけでも、近道で楽をしたワケでもない……ただまっすぐに、イバラの道を駆け抜けてきた証拠……あなた様は……かすり傷一つとっても、美しい」


 心底から、心酔して、

 言葉を並べるバンプティ。


 そんなバンプティに対し、

 センは、タメ息をついて、


「本当に……なんで、どいつもこいつも、俺の言葉を見失うんだ……ちゃんと見れば、俺がただの変態でしかないって分かるはずなのに……まったく……」


 心底から呆れかえってから、


 センは、拳に力を込めて、


「……『本当の美しさ』ってのは『人を豊かに出来る力』なんだ……俺はただ膨らんだだけ。それじゃダメなんだよ。俺じゃないんだ、世界にとって必要なのは」


「尊き主よ、あなた様は、ただ膨らんだだけの数字ではない」


「それは誤解だよ。俺はただの膨らんだ数字だ。多くを知った事で、それに気づいた。さっきも言ったけど、俺より美しいやつは、探せばいくらでもいる」


 言ってから、

 バンスールの腹部に、重たい拳を叩き込む。



「うぐっっ!!」



「俺よりも美しい光。……お前は、その一人になれる器。だから、さあ、もっと美しく輝け、バンプティ。俺を超えろ! おかわりだ!! もう一歩、先へ行け!!!」

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