なんという贅沢な時間でしょう。

 なんという贅沢な時間でしょう。


 裏閃流究極真奥義、

 セン帝国の逆襲。


 ――奥義の執行によって、

 センエースの全身が、重厚な光に包まれる。


 非洒脱的な、満身創痍の、

 どこか、みすぼらしい光。


 けれど、確かに、超然としていて、

 見る者全てを惹き付ける。


 淡く、淡く、淡く、

 緋色をちりばめた桜色がたゆたう。


 臙脂(えんじ)の夕焼けを背負いながら、

 跋渉(ばっしょう)する郷愁(きょうしゅう)を飲み込んでいく。



「……延々と、命の階段を上り続けてきた……ボロボロになりながら、ただ上へ、ただ上へと。『絶対に折れてやるもの』かと『死んでも降りてやるものか』と、決死の覚悟を叫びながら」



 『命の王』が紡ぐメッセージは、

 いつだって、ただの言葉でしかないはずなのに、

 まるで、質量を持った希望のように、

 魂の芯に触れてくる。


「大人になりたいと思ったことは一度もねぇ。そんな俺に神の王なんて仕事は果たせるわけがないミッションだった。実際のところ、俺は、いつだって、ただ、自分の欲望に素直だっただけ」


 そう言って、柔らかに武を構える。


「それでも……なくしたくないものがいくつかあったから、これまでずっと、最低限の仕事だけはこなしてきた。自分だけの『望み』を叶えようともがく傍(かたわ)らで、命の王としてのミッションを誠実にこなしてきた。――今だってそうさ。これはただの職務。定石ですらない、至極当たり前の、つまらない一手。なくしたくないもののために、命の王としての責務を果たす」


 そんなセンに、

 バンプティは、問いかける。


「一つ、お聞かせいただきたい。主の『望み』とは?」


 その純粋な疑問に対し、

 センは、

 イタズラな笑顔を浮かべて、




「綺麗なお姉さんといっぱいお付き合いしたかったんだよ」




 そう言うと、

 センは柔らかに飛翔した。


 目で追える程度のはやさで、

 けれど、バンプティは動けなかった。



「ああ……なんという贅沢な時間でしょう」



 バンプティにとって、

 センエースが並べた『言葉の意味』はどうでもよかった。

 そんなものは『ただの歌』でしかないと理解できたから。


 今、この時間だけが、バンプティにとっての全て。


 神の光に包み込まれたバンプティは、

 自身の幸運に対し心の底から感謝し、心からの涙を流した。


 本当に、あまりにも贅沢な時間だった。


 神の全てに包まれている時間。

 この上なく尊い一瞬。


「ギャグ飛ばしてんだから、笑えよ、バンプティ。泣かれても困るんだよ」


 そう言いながら、センは、

 手抜かりなく手加減した拳で、

 バンプティの腹部に一撃をブチ込んだ。


 まるで光を注ぎ込まれたみたいに、

 バンプティの全てが活性化していく。


 目が覚めて、

 涙が蒸発した。


 ドクンと心臓が脈打って、

 断食明けの食欲みたいに、

 バンプティは、

 センエースの武を求める。


「――バン拳!!」


 センエースの二手目に対して、

 バンプティは、渾身のバン拳で合わせた。


 これまでの限界を超越した拳。

 一瞬で、いくつもの壁をブチ壊してみせた拳。


 その拳を、

 センエースは、


「――いいぞ、バンプティ」


 しっかりと、本気で褒めてから、


「その爆発的成長ペースで、あと『200億4999年』と『364日23時間50分』ほど積めば、俺にかすり傷をつけることができるだろう」


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