未来の器になりえる覚悟。

 未来の器になりえる覚悟。


「さあ、構えろ。ヒーローの舞い方を教えてやる」

「ひどく役者不足ではございますが、お相手させていただきます、尊き主よ」


 そう言って、両者は、向かい合う。

 ほんの一瞬の静寂。

 コンマ数秒後、

 静けさを切り裂くように、

 強欲な拳たちが弾け合う。


 交わし合う、極限の武。

 常人の理解を全力で拒む、

 あまりに高次すぎるイカれた戦闘。


 センエースの武は、あまりにも高い場所にある。

 常識を超越した、狂気の結晶。


 しかし、バンプティは、ソレについていく。

 遥かなる高みの武。


 理解しきれない世界で、

 しかし、バンプティは必死になって食らいつく。


 老巧(ろうこう)で精妙(せいみょう)な拳がうたう。


 幻想の剣が、芸術的な連鎖をおこして、

 『三次元ではモノたりない』とばかりに、

 空間のあちこちに、鮮やかな命の色を塗りたくっていく。


「あらためて言おう。バンプティ……お前の覚悟は見事だ。積み重ねてきた輝き……その全てが一致して、果て無く美しい煌めきになっている。お前の強さには敬服する」


 武を交わし合う中で、

 神の王は、心からの言葉を並べる。


 尊き言葉を受けて、

 バンプティは、また涙を流し、


「敬服などと……私ごときにもったいない御言葉……今の私は、沸騰しているだけ。力の源は、私の中に潜む虫のモノ……」


「確かにそうだ。しかし、バグったウルティマ・ギアスをも支配してみせたその胆力は、お前自身のもの。お前は美しい。お前の強さは、本物だ」


「ありがたき……お言葉……」


 ボロボロと、熱のある涙を流し、感謝の意を述べるバンプティ。

 必死になって積み重ねて日々が祝福された。

 それに敵う喜びはない。


 幸福と歓喜に包まれているバンプティに、

 神の王は、


「とは言ったものの……お前の魂魄……そのままでは、くだけてしまいそうだな。その『膨大な数値』を背負っていけるだけの器が、今のお前にはまだない。お前は強いが、まだツボミであることに変わりはない。お前を失うわけにはいかない……となると、お前を過剰に膨らませている『異物(仮バグ)』は、是非モノで駆除しなければいけない……が、そうなると、お前は、その力を失ってしまう……それは非常にもったいない……」


 どうにかして残しておく方法はないかと考えるセンに、

 バンプティは、ニコっと微笑んで、


「自力で……いつか、自力で届いてみせましょう。尊き主よ……私は、その日まで、研鑽の手を止めない……これまでと同じ……いえ、これまで以上に……私は、私を積んでいく……その覚悟が……今の私を包み込んでいる……」


 未来の器になりえる覚悟をみせたバンプティ。

 その想いを受け止めたセンは、

 柔らかに微笑んで、


「そうか……強いな」


「あなた様ほどではございません」


「そうかな……実際のところ、俺は、さほど大した男じゃない」


「ご謙遜が過ぎて、猛毒の嫌味になっておりますぞ、お気をつけください」


「謙遜じゃねぇよ。ただの事実だ。背負ってきたモノが、俺に不遜を通させているだけで、実際のところ、俺なんざ、ただのド変態だ。それ以上の何かにはなりえねぇ」


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