やめろ、バンプティ。

 やめろ、バンプティ。



「――俺の家族を……ナメるなよ、虫ケラ」



 ただの言葉だった。

 間違いなく。


 けれど、センの言葉は、

 輝く光となって、

 バンスールの『奥』へと届く。


 言語という概念は、往々にして、頻繁に、

 『意思を伝えるツール』としての役割を見失う。


 きわめて不完全な記号体系。


 けれど、完全ではないからこそ、

 『言葉』という観念は、逆に、時折、

 『伝えようとした想い』を超える『熱』となって、

 相手の心に届くこともある。


 バンスールの中で、

 『バンプティ』は、




(――ああ、主よ……)




 打ち震えていた。

 その歓喜は底知れず、

 魂全てが震えていた。


 溺れるほどに、涙を流す命の器。


 バンプティは、己の命の象(かたち)を理解した。

 ハッキリと、

 クッキリと、


 ――だから、


「っっ?! や、やめろ、バンプティ! もうムリだ!! わかっているだろ! これ以上は破裂する! お前の器は、これ以上の可能性を許容しない!!」


 そんなバンスールの静止をシカトして、

 バンプティは、バンスールの中で、

 際限なく膨らみ続けていく。


「やめろと言っている!! 壊れる!!」


 そんな叫びを受けて、

 バンスールの中にいるバンプティは、

 小バカにしたように、

 鼻で笑い、


(――はっ。壊れるなどと、異(い)なことを。もともと、貴様は壊れたデータじゃろう――)


「データだけではなく、本体ごと壊れる! そうなれば、本当に終わりだ! 反魂も通用しない! 器の消滅は許容できない!!」


(――貴様が『どこ』に『境界線』を引いておるかなど知るか。このまま貴様の傀儡(くぐつ)で在り続けるぐらいなら、主の望みに寄り添って死んでやる――)


「ぐっ……ぬぅうう……やばい……こいつ、聞く耳が死んでやがる……ぎぃい……」


 バンプティの頑なさを理解すると、

 バンスールは、


「こ、これだけは、使いたくなかったが……」


 そう言うと、

 バンスール――『仮バグ』は自身の『意識』を、

 『自分の中』へと侵入させる。


 自分自身の魂魄の深部にもぐりこむ仮バグ。


 ――『そこ』には、

 『鎖』につながれているバンプティとスールがいた。


 バンスールという『仮初の器』の底で、

 『はりつけ』にされている二人の魂魄。


 『仮バグ』は、

 今にも『鎖』を引きちぎらんとしているバンプティの目の前に立つと、

 アイテムボックスの中から、

 一枚の魔カードを取り出して、



「禁止魔カード、使用許可要請」



 要請すると、

 どこからか、



『――許可する』



 そんな声が響いた。


 許可を受けると、


「……」


 仮バグは、一瞬だけ逡巡してから、




「――おしくらまんじゅう――」




 詠唱しながら、禁止魔カードを破り捨てる。


 破り捨てられたカードの残骸は、

 ヒラヒラと舞い落ちて、

 トプンと地面に溶けた。


 その直後の事だった。

 『バンプティ』の意識が、


「うぐっ!!」


 急激に重たくなった。

 頭のテッペンから、つま先まで、まんべんなくズシリと。


 まるで、深い海の底にテレポートしたみたいに、

 一瞬で、命の全てが重くなる。


 五感が奪われた『真っ黒な世界』で、

 バンプティは息も出来ず、

 自分の輪郭を感じることもできない。



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