ナメるなよ。

 ナメるなよ。


「お前のことなんか知らねぇ。だが、バンプティとスールのことなら知っている。どちらも、俺のワガママのために尽力してくれた大事な家族。だから、ずっと見守ってきた。どれだけ頑張ってくれたか、どれだけ心を削ってくれたか、そのぐらいは理解できるよう、この目で見届けてきた」


 ふんぞり返っているのは性に合わないし、

 現場を知らない経営者にだけはなりたくなかった。




 嘘っぱちだったとはいえ、

  ヒーローを名乗ってしまった。


 虚栄だったとはいえ、

  命の王を名乗ってしまった。




 だから――というわけでも、結局のところは、ないのだけれど、

 センエースは、これまでずっと、自分の責務と向き合ってきた。


 これまで、ずっと、

 センは、ゼノリカの王として、

 『家族の努力』を、すぐ近くで見届けてきた。



「バンプティの武の才能は乏しい。もちろん、無能じゃないが、他の九華と比べれば、明らかに資質の点で劣っている。そんなバンプティが、九華の十席序列二位という地位に至るまでの努力……その『質量』がお前に想像できるか?」



 強い目で、


「この『センエース』という男は、気色が悪い『嘘まみれの虚構』だが、しかし、ゼノリカは『美しい本物』だ」


 センは、


「ゼノリカは『命のリアル』と真っ向から向き合っている強靭な組織。もちろん『総合的な武力』も『高み』にあるが、しかし『そんなもの』は『ただの手段でしかない』と知っている、『芯』のある組織」


 武力は重要だが、

 『それだけ』があったって豊かにはならない。


 ――本当の豊かさを守るために、

 ――輝く明日を守るために、


 『そのため』に磨いた力であることを、

 どれだけの人間が、

 どれだけの覚悟で、

 『自覚』しているか。


 『命の最前線』において、もっとも重要な点はそこにある。

 そこを見失った組織は例外なく道半ばで瓦解する。


「もはや『頭が悪い』とすら言える『鋼のような真心』を執行しようと、誰もが、超重量の地獄を積み重ねて、毎日、毎日、もがきあがき苦しみながら、しかし、『それでも』と叫びながら『命の現実』と戦い続けている、そんな理想の組織……」


 強い敵があらわれました。

 殴り殺しました。

 めでたし、めでたし。


 ――英雄譚なら、そこで終わりだが、

 『命の現実』において『最も重要な闘い』は、その先に待っている。


 平和という概念は、

 『築く』よりも『維持』する方がはるかに大変で、

 なのに、維持しなければ、なんの意味もないという、無茶な理想。


 そんなことは、誰だって知っている、

 けれど、

 大概の『人類』は、当然のように、途中で見失う。


 まるで、イタズタな運命かのように、

 必ず、どこかで、ぶっ壊れて、歪んで、腐ってしまう。


「存在値がどうとか、戦闘力がどうとか、そんなちっぽけな視点だけで世界を見ていたら永遠に届かない……『そんな領域』があることすら、今のお前では想像もできないだろう。誰もが輝く明日を信じられる世界という、ありえねぇ理想を実現させるために、死に物狂いで毎日を積んでいる超人集団、その狂気がお前に分かるか」


 胸をかき抱き、

 奥歯をかみしめて、


「……俺の希望……俺の夢……俺の全部……」


 まっすぐに、射貫くような目で、






「――俺の家族を……ナメるなよ、虫ケラ」




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