羞恥の螺旋。

 羞恥の螺旋。


「ちょっとしたジャブ……微量のアリア・ギアス、か……はは」


 つぶやきながら苦笑いをするカドヒト。


 技の特性上、

 開発した『当人』以外だと、

 『本当の重荷によるプラス』は生じない。


 ――それが閃拳。

 センエースが、その生涯をかけて積んできた覚悟の結晶。


(……『死ぬほど積んできた』っていう点と、『自分の名前がついた技名を叫んでいる』ってところがミソで……その二つがないなら、マジでただの正拳突き……だから、ほんと、マネるのとか、やめてほしいんだよなぁ……正直、こっちとしては、めっちゃキツいんだよ……その辺のキツさが、追加のアリア・ギアスになって、閃拳がより強化されたって経緯もあるが……そんな強化はいらんから、マジでやめてくれってのが本音なんだよなぁ……)


 センエースの名前がついた技名を、

 センエースのことを信奉している信者たちが、

 毎朝毎朝、100回叫んでいる。


 この狂気的な状況が、センエースの拳に、

 多大な力を与えてくれる。


 正直な話、

 聖典教という存在は、

 『センエースの武』にとっては大きなメリットがある。


 『マジで勘弁してくれ』という心の叫びは、

 『高次のアリア・ギアス』として昇華されて、

 センエースの魂魄を一歩上の高みへと押し上げた。


 ――けれど、イヤなものはイヤなのだ。

 『自分が閃拳と叫ぶこと』までは許容できても、

 『自分の信者が、毎朝、100回、閃拳と叫んでいる』という状況は我慢の許容外。


「意味がわからない!! 本当に、なんだ、この状況は! なぜ、私が押し負けている! なぜ、こんなことになっている! 私の存在値は3000だぞ! 対する貴様の存在値は170! 闘いになどなるはずがない!」



 ――その叫びを受けて、

 少し離れた場所で見学しているスールが、ボソっと、


「自分で答えを言っているじゃねぇか。実際には、存在値3000なんてイカれた数字にはなっていないって、それだけの話だ。つぅか、いつまで、その『通じていないハッタリ』を続けるんだよ……どんだけ頭わるいんだ……それでも、九華かよ……ったく」


 心底からの怒りをあらわした顔でそうつぶやく。


「世界の剣たる『九華の十席』が……みっともない無様をさらすなよ……」


 ギリっと奥歯をかみしめるスール。


 そんなスールの視線の先で、

 バンプティは、青ざめた顔のまま、

 ――続けて、


「数倍の差ならば、戦闘力で埋めることも不可能ではないだろうが、20倍近くともなれば、さすがに不可能だ! アリと恐竜が闘っているようなもの! アリが何をしようと、恐竜に勝てるわけがないんだ! なにをした! どんな奇術だ!」


「前提が間違っているよ、バンプティ。……俺はただのアリじゃねぇ。俺は、とんでもなくヤベぇアリだ。そして、お前は、恐竜じゃねぇ。ちょっとバグっているだけの虫ケラでしかない」


 カドヒトは、

 さらに濃い円を世界に刻みながら、


「俺より20倍ほど数値が高い……その程度のザコが、俺に勝てると思うなよ」


 宣言しつつ、心の中で、


(言っておくが、当時の俺と、愚神の差は、こんなものじゃなかったぜ)


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