42話 閃拳という概念。

 42話 閃拳という概念。


「そんだけの大口をたたいたんだ。ちゃんと、俺を置き去りにしてくれよ。期待しているぜ」


 そう言うと、

 カドヒトは、空間を駆け抜けた。


 ――結果、バンプティの武は、すべて空となった。


(な、なんじゃ、この圧力は……)


 バンプティが積んできた努力は本物。

 そして、現状、その努力は、仮バグとの融合で開花している。


 美しい武の化身となったバンプティ。

 しかし、その美しさも、

 カドヒトの前では、

 実際のところ『空蝉』とかわらない。


 存在値に差があるので、

 カドヒトがいくら攻撃をあてても、大したダメージは通らない。


 だが0ダメージではない。

 0ダメージではないどころか、


「――神速閃拳――」


「がががががががっ!!」


 凶悪なグリムアーツの連打は、

 しっかりと通っている。


 存在値的には『2830』差でバンプティに軍配が上がるが、

 『下地の差』はそんなものではなく、

 圧倒的かつ徹底的かつ決定的に、カドヒトの方に軍配が上がる。


「存在値に差があろうが、ちゃんと気合を入れて殴りつければ、最低限は削ることができる。最低限が通るなら、あとは『お前の攻撃を避けて殴って』を繰り返すだけでいい。それで俺の勝ちだ。単純な話さ」


「なんだ、貴様の拳は! どういう手品だ!」


 バンプティごときでは理解できない武。

 バンプティだって『高みに至った達人』だが、


 『高みに至った達人』程度が、

 ――『神の王』を理解できるはずもなし。


「ただの正拳突きが、こんなに痛いわけないだろぉおお! ふざけるなぁああああ!」


「聖典読んでいるんだろ? なら、閃拳ぐらい知っているだろ? 閃拳はただの正拳突きじゃない」


「微量のアリア・ギアスが込められているだけの猿真似が! こんなに痛いわけがないと言っているんだ!! 私だって、閃拳ぐらい使える! 名前を叫んで殴るだけだからなぁああ! 閃拳程度のちょっとしたジャブで、これほどの痛みを与えられるワケがない! なんでだ! どうして!」


 ド〇ゴンボールを読んだ事があるものならば、

 だれしも一度は『か〇はめ波』をまねるように、

 聖典を読んだことがある者であれば、

 誰でも一度は、閃拳をまねてみる。


 なんせ、『閃拳』と口にして正拳突きをするだけなので、

 難しい要素は一ミリもない。


 聖典教の宗派の中には、『祈り』の一環として、

 毎朝『閃拳100回』を行うというのもあるほど。


「ちょっとしたジャブ……微量のアリア・ギアス、か……はは」


 つぶやきながら苦笑いをするカドヒト。


 一般人の視点で言えば、閃拳は、

 『名前を叫ばなければならない』という以外にデメリットがほぼない。


 その名前だって、別段『長くて言いづらい』というわけではないので、噛むこともなければ、大きなタイムラグが生じるわけでもない。

 もちろん、自分が何をしようとしているか『相手に丸わかりになる』というのがデメリットだが、『それがどうしてもイヤなタイミングでは他の技を使えばいい』だけなので、大きな重荷というわけでもない。


 閃拳は『センエースが使っていた』という点以外には際立った特徴がない、

 いわゆる『象徴的な技』でしかない。

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