欲しいのはお前じゃないんだよ。

 欲しいのはお前じゃないんだよ。


「わかっていると思うが、絶対に手を出すなよ」


「俺は聖典におけるセンエースの在り方に疑問を抱いているだけで、ゼノリカに反意を示す気などさらさらありませんから、偉大なる九華の第十席様に手をだしたりしませんよ」


 そこで、スールは、バンプティに視線を向けて、


「そっちが俺に攻撃を仕掛けてくるなら話は別ですけどね。……さすがに、俺を武力制圧する気はないですよね? ゼノリカは、そういう『道理に合わない理不尽』を執行したりしない」


「当たり前の話じゃ。正直、パメラノ猊下のスピーチを邪魔したぬしには憤慨しておるが、しかし、真・神法基準で言うと、ぬしは犯罪者ではない。となれば手はだせん」


「じゃあ、どうして俺も閉じ込めたんすか? リーダーだけでよかったんじゃ?」


「愚かな若者よ。私がカドヒトに説教しているところを、そこで見ておれ」


「……なるほど。そういうことですか」


「もし、カドヒトの逮捕を邪魔すれば、公務執行妨害で制圧するが、そうでない限り、かすり傷一つおわせる気はない。本音で言えば、2・3発シバいてやりたいがのう」


 そこで、バンプティは、スールから視線を外し、

 カドヒトをにらみつける。


 と同時に、スールは、少し距離をとって、

 二人の『対話(たたかい)』の邪魔にならないポジションを確保する。


 スールは、俯瞰で二人を見つめながら、


(十席の序列二位バンプティ……沙良想衆の出身でありながら、百済の闇人形や楽連の武士にも負けないほど『武』に定評がある高名な『努力家』……とびぬけた資質や異能は持たない凡人だが、狂気的な努力だけで十席の序列二位にまで上り詰めた異端……)


 バンプティというジイサンは、『派手好きな連中』のウケは悪いが、

 そのいぶし銀ぶりが、特定の層から熱狂的に支持されている稀有な存在。


 もちろん、第十席にまで上り詰めたバンプティが『凡人』なわけがないのだが、

 しかし、事実、他の『天上の面々』と比べると、

 『資質の面』で大きく劣っている。


 スマホゲーでいうところの『10連ガチャのハズレ枠』。

 派手好きのミーハーからは『欲しいのはお前じゃないんだよ』と、

 非常にイヤな顔をされてしまう地味な低ランクキャラ。


 バンプティには、九華の面々や、

 『ドナ(十席序列三位)』や『アクバート(十席序列一位)』のような、

 見るものを一瞬で惹きつける『華々しさ』がない。


 とにかく地味で、特徴が薄く、目つきもちょっと悪くて、

 なにより悲しくなるほど華がない。


 だが、その『地道さ』と『ひたむきさ』は、

 『華を持たざる者たち』から圧倒的に支持されている。


 才能なき者たちの期待の星『バンプティ』。


 そんな彼の武に対して、

 カドヒトは、

 しみじみと、


「バンプティ。ハッキリ言って、あんたには才能がない」


「ついさっきまで褒めておったと思ったら、今度は、一転して侮蔑しだす……さすがの情緒不安定ぶりじゃな。話にならん」

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