春によく沸くヤツ。

 春によく沸くヤツ。


「最初に断っておくが、サインは遠慮してくれ。一人に書くと、全員に書かないといけなくなる。写真撮影もNGだ。俺の写真を家に飾られて、毎日拝まれるなんて、想像するだけで死にたくなる」


「犯罪者のサインや写真など、誰が欲しがるか、クソボケ。思想だけではなく、自意識までイカれておるのか」


「くっくっく、そんなことを言っていられるのも今のうちだ。貴様も、すぐに欲しくなるさ。俺の輝きにあてられた者は、誰だって狂信者になる。なぜならば、俺様は、この上なく尊い美の結晶だから」


「くだらんことを、ごちゃごちゃと、やかましい。少し黙れ」


 カドヒトの純粋なボケに対して、

 至極まっとうな反応を見せてくれるバンプティ

 それが小気味よくて、カドヒトは、

 ついつい、無駄なアクセルを踏み込んでしまう。


「黙れとは、ずいぶんなご挨拶じゃないか、バンプティ」


 口元の笑みを深めて、

 しかし、視線にはギラっとした光を入れて、


「なぜ、俺が、お前の命令を聞かなければいけない?」


「どうやら、私の意図が正しく伝わっていない模様。……ではこう言い換えよう。死にたくなければ黙れ」


「ははっ、いいねぇ」


 カドヒトは、本当に楽しそうに、ケラケラと笑ってから、


「九華の末端風情が、この俺を殺せるとでも? 勘違いも甚だしいぜ」


 そう言い切り、見栄を切ると、

 右手の親指で自分を指して、


「俺は真実の伝道者カドヒト・イッツガイ。その気になれば、神界の深層を統べることも出来なくはない気がする稀代の超人。運命の調律だって、任せてもらえれば、なんだか出来そうな気もしないでもない……そういうレベルのスーパーサイコパス。俺がその気になれば、お前が100億人いてもワンパンよ」


「……なるほど、イカれておる……完全なキ〇ガイじゃ……春によく沸くやつじゃのう」


 バンプティは、心底から呆れかえっている顔でため息をつき、


「できれば『こんなの』の相手はしたくないのじゃが……まあ、仕方がない」


 そう言うと、静かに気を高めていく。


 充実していく魔力。

 オーラが全身をめぐって、

 全身をシンと包み込む。


 その様を見たカドヒトは、


「おー、おー、いいねぇ! なかなかの練度だ。長き時間をかけて、じっくりと磨いてきたのが伝わってくる……」


 そう言ってから、

 さらにジっと、バンプティのオーラを見つめ、


「いや……本当にいいな……あんたはすげぇよ、バンプティ」


「貴様に褒められても、まったくうれしくない」


 そう言うと、バンプティは地面を蹴った。

 きわめて制度の高い瞬間移動でカドヒトの死角にもぐりこむと、

 右手に集めた魔力の塊を、カドヒトの側腹部にたたきこむ。


「ぐっ……っ!」


 一発では終わらない。

 続けて、二発、三発と、

 バンプティは、重たい拳を叩き込んでいく。


 素晴らしい速度、

 素晴らしい練度。


 『バンプティが積み重ねてきたもの』を、

 その身で受け止めたカドヒトは、

 瞬間移動で距離をとると、



「……心底から感嘆するぜ、バンプティ……あんたは、マジですげぇ」



 そう言ってから、カドヒトは、背後のスールに視線を向けて、


「わかっていると思うが、絶対に手を出すなよ。ここで俺に加勢したりしたら、お前もマジで捕まるぞ」


「俺は『聖典におけるセンエースの在り方』に対して『まっとうな疑問』を抱いているだけで、ゼノリカに反意を示す気などさらさらありませんから、偉大なる九華の第十席様に手をだしたりしませんよ」


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