写真撮影とサインはご遠慮ください。

 写真撮影とサインはご遠慮ください。


「華麗なヒーローなんて存在しない。『俺はヒーローじゃないが、それでも』と叫び続けた、泥臭くて、けれど、だからこそ美しい『たくさんの勇者』がいただけ。センエースはその中の一人。そんだけ」


 カドヒトの言葉を受け止めたスールは、

 心の中で、


(勇者の中の一人ではあった……少なくとも『とてつもなく強い人物であった』ことは間違いなく、そして、きっと、高潔でもあったはず。そうでなければ『ゼノリカ』が『聖典のウソ』を許容するはずがない……ゼノリカに、あれだけの大きな嘘をつかせるだけの『何か』が、センエースには、あった……それは、いったいなんだ……)


 と、

 スールがセンエースに対する考察を深めていると、

 そこで、スールの視界がグニャリとゆがんだ。


 内臓がギュっとなるこの感覚。

 スールは、即座に理解した。




(空間魔法……っ)




 理解すると同時、

 アイテムボックスから剣を抜き、臨戦態勢に入るスール。


 閉じ込められたのは、野球のグラウンドほどある大きな空間。

 全体的に真っ白で、魔法の淡い光に包まれている。


(気配をまったく感じなかった……いったい、誰が……)


 周囲をうかがうと、

 隣には、自分と同じく『閉じ込められたカドヒト』がいて、


 そして、その視線の先には、



(……バンプティ……っ)



 老人が立っていた。

 ジジイ感が強い男。

 真っ白な髪とヒゲ。


 中肉中背で、少々目つきが悪い。


 ――九華十傑の第十席序列二位バンプティ。



「アジトにいてくれて助かった。探す手間がはぶけたからのう」



 その言葉を聞いたカドヒトが、

 鼻で笑って、


「アジトって……別に、反聖典の事務所は、秘密にしているわけでも、人目を忍んで隠しているわけでもなんでもないんだが?」


「どうでもよいわ、そんなこと」


 そう言い捨ててから、


「手配書で顔は確認しておるが……一応、聞いておこう。貴様がカドヒト・イッツガイで間違いないな?」


「ああ。ちなみに、変な勘違いや認識違いをされたくないから、何度か留置所に出頭して、俺のデータを登録してやったんだ。感謝しろ」


「貴様の都合をなんで私が感謝してやる必要がある?」


「必要かどうかはどうでもいい。俺が感謝を求めたら、泣いて喜びながら頭を垂れるのが世界の摂理ってだけの話だ。さあ、這いつくばって靴をなめろ」


「傲慢な変態じゃな」


「違うね。ちょっとしたギャグを飛ばしてスベっているだけの変態さ。ちなみに、一応、言っておくが、俺には、靴を舐められて喜ぶやつの気がしれん。そこのところの感性に関して、俺は至ってノーマルだ」


「……なんというか……貴様と話していると、頭が痛くなるのう」


「まれによく言われるぜ」


 そう言いながら、

 カドヒトは、うーんと伸びをして、


「それで? 俺に何か用か? 最初に断っておくが、サインは遠慮してくれ。一人に書くと、全員に書かないといけなくなる。写真撮影もNGだ。俺の写真を家に飾られて、毎日拝まれるなんて、想像するだけで死にたくなる。『俺の姿を残す』ってのは、手配書に登録するまでが限界。それ以上は許容しない」


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