センエースは実在した。しかし、完璧なヒーローなどではない。

 センエースは実在した。しかし、完璧なヒーローなどではない。


「先天的なチートスキルがエグかっただけのキ〇ガイ。それがセンエースの実態だ。もちろん、戦わせれば、それなりに強いが、結局のところは、それだけの暴力装置。敵を殺すことは出来ても、人を豊かにすることはできない」


 カドヒトは、遠くをみながら、

 強い熱量を伴う勢いで、


「政治とか経済とかはからっきし。存在値と戦闘力が高いだけの偏屈なサイコパス。それ以下であることはあっても、それ以上になることはあり得ない」


 その言葉は、冷静な分析ではなかったものの、

 単なる暴走した批判という感じでもなかった。


「聖典におけるセンエースは、あまりにも過剰に美化されすぎている。少なくとも『センエースのおかげで、世界は美しく平定された』って一文は確実に削除すべきだ。世界平定に関して言えば、マジで、あいつは何もやっとらん」


 カドヒトのマシンガントークを受けて、

 スールが思ったことは『一つ』だけだった。


「……実在は……したんですね……」


 カドヒトの言葉には『熱』があった。

 もちろん、これまでに話してきた人間にも熱はあった。

 『戦争中、センエースに声をかけてもらったことがある』と言っていた爺さんは、それだけが『人生の誇り』であり『誰にも負ける気がしない永劫の自慢』といった感じだった。


 だが、カドヒトの言葉に宿っている熱は、それとは一線を画した。

 『偶像に浸っている』というわけではなく、

 『ありのままに事実を伝えようとしている』という熱をひしひしと感じる。


 だから、スールは、まっすぐに、カドヒトの言葉に耳をかたむけることができた。

 一言一句を聞き逃すまいとする勢いで、カドヒトの言葉に集中する。


 カドヒトは、たんたんと、


「実在はした。それは間違いない。だが、何度も言ったように、聖典に書かれていることは大嘘だ。聖典はアレンジが過ぎる。誇大妄想と言ってさしつかえない。……だから、お前の想いは何も間違っていない。聖典は是正されなければいけない」


「リーダーは……会ったことがありますか? センエースに……」


「ないな。正式に言うところの『会ったこと』はない。だが、同じ時代を生きたことがある。だから分かる。聖典は間違っていると、ハッキリ言える」


(実在はした……か……)


 もちろん、おいそれと信じ切ることはできない。

 だが、いったん、飲み込んでみることにしたスールは、

 『その先』に意識を巡らせる。


(センエース……どういう人間だったのだろう……聖典に書かれていることは、さすがに嘘だとしても……実在したというのなら、ゼノリカに、あの嘘を書かせた『何か』はあるはず……その何かとは、いったい……)


 押し黙ったスールを横目に、

 カドヒトが、


「変に迷うなよ、スール。聖典に異を唱えることは正しい。あんな大ウソをのさばらせておくわけにはいかない。世界を守っているのは、センエースではなく、ゼノリカ。これが事実。『超かっこいいスーパーヒーローが華麗に美しく世界を救いました』なんて気色の悪い捏造は、なにがなんでも是正していかなければいけない『世界の歪み』だ。華麗なヒーローなんて存在しない。『俺はヒーローじゃないが、それでも』と叫び続けた、泥臭くて、けれど、だからこそ美しい『たくさんの勇者』がいただけ。センエースはその中の一人。そんだけ」

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