さすがに修正。

 さすがに修正。


「呪いをもとに戻してくれないかなぁ? 私は『男の自分』をすごく気に入っていてねぇ。まあ『男であることが好き』っていうより『女であることが面倒くさい』って感じだけど、まあ、どっちでもいいよねぇ」


 などと言っているヤマトの言葉に、


「聞けない願いだ」


 いっさい耳を傾けず、

 ナイアは、


「……ふぅううううううう……」


 深く息を吐いて、

 そして、


「……真・究極超虹神気……」


 果て無き虹気を発動させる。

 膨れ上がっていく力。

 その力を目の当たりにして、

 ヤマトは、


「わぁ……大きいねぇ……てか、なんなのかな『しん・きゅうきょくちょうこうしんき』って。虹気の最終進化系みたいな? ははは……ほんと、もう、一ミリも理解できないくらい大きいねぇ……なんなんだろう……君って、たぶん、人間じゃないよねぇ?」


「いや、人間だ。少なくとも、この器は人間だ」


「へぇ……人間ってすごく大きくなれるんだねぇ。驚きだよぉ」


 などと言っているヤマトの目は完全に飛んでいて、

 幻覚を見ている人間のようになっていた。


 ハッキリ言って、

 ヤマトの『中』でも、

 すでに、現実と夢の区別がついていない状態にある。


 ゲンが黒い混沌に包まれた時ぐらいから、

 頭がついてきていない。

 今の彼女は、ただの、狂気的なプライドに操られている空虚なマリオネットでしかない。


「これは……たぶん、夢だと思うんだけど……夢の感じがしないなぁ……困ったなぁ……」


 などと、ぶっ飛んだ目でラリっているヤマト。


 そんなヤマトに対し、

 ナイアは、


「……『クールに壊れている』というのがヤマトの持ち味……修正してしまえば、魅力半減で、楽しさが少し薄れてしまうんだが……」


 ぶつぶつと、そう言ってから、


「……しかし、ここまで歪んでいると、さすがにつまらない……となれば……修理してみるしかない……が、この辺の調整は、すさまじく難易度が高い……はたして、うまくできるか……」


 数秒だけ悩んだが、


「……まあ、いいか……最悪、失敗しても、それは『そういう運命だった』と諦めよう」


 決意すると、

 両手に魔力を溜めていく。

 細かく、魔力を調節しつつ、




「――『神の慈悲』――」




 そう言いながら、パチンと両手の指を鳴らした。


 すると、

 ヤマトの全身が淡い光に包まれた。


(……な……なに……この光……)


 暖かな光。

 心の輪郭が見えてくるような、

 とても暖かくて、心地いい光。


 脳の奥からドクドクと分泌液があふれて、

 全身がカァっと満たされたように熱くなる。


 ――数秒後、


「……かはっ……」


 ヤマトは、深く息を吐いて、

 大きく酸素を吸った。

 全身が脈動している。


(……ぁあ……なんだか……すごく……頭がスッキリしている……今までは、ずっと寝ぼけていたような……けど、今では、頭の中のモヤがなくなったような……)


 半眼で寝ぼけていたような先ほどまでとは違い、

 意識がシャキっとしているような、

 感覚が研ぎ澄まされているかのような……


 そんなヤマトの様子を見て、

 ナイアは、


「なんでも、やってみるもんだな……8割方壊してしまうだろうと思っていたんだが、完璧に成功した……すごいな、俺……」


 ボソボソと、


「いや、この場合、俺がすごいというより、そういう運命だったと考えた方が楽しいか?」

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