バッキバキのヤマト。

 バッキバキのヤマト。


「――ゴキのヤマト。それが私の誇り。自分で選んだ道。そのプライドだけは、絶対に、誰にも奪わせない」


 そう言うと、

 ヤマトは、ナイアから視線をはずし、


 『全宮ロコ』にロックオンして、


「魔法的手段だと、何をしても止められる……原理はわからないけれど、そうなるってロジックだけは、よくわかったよぉ。……でも、ならばぁ……」


 豪速で、

 『自分に出来る全て』を賭して、

 『ロコを殺そう』と駆けだした。


 最短・最速で、魔法を組み上げ、

 どうにか、ロコの命を奪おうとするが、



「――その女は、ゲン・フォースにとって必要なんでな。殺させるわけにはいかない」



 驚異的な速度でヤマトとの距離を詰め、


「?!」


 ヤマトの腕をつかむ形で、ロコの抹殺を阻止するナイア。


「……か、確実にヤレると思ったんだけどなぁ……ていうか、今の一手を防ぐとか……どうやって……? 君、ほんと、どうなってんのぉ? 不思議だなぁ、奇妙だなぁ」


「バッキバキの目をしやがって……ろくに話もできやしねぇ」


 そう言うと、ナイアは、

 ヤマトの腕をつかんだまま、

 残っている手でパチンと指をならした。


 それと同時、

 ヤマトの視界がグニャリとゆがむ。

 そのゆがみは二秒ほどで、

 気づいた時には、真っ白な空間にいた。


(空間系の魔法かぁ……システムがまったく理解できない造りだねぇ……)


 肌で感じた。

 ピリつく。

 脳の奥まで届く感じ。

 異質な雰囲気。

 これまでに感じたことのない、まがまがしい魔力の結晶。


(こりゃ、脱出するのは……無理そうかなぁ……)


 ヤマトがそんなふうに、この空間に対して考察していると、

 ナイアはヤマトの腕から手を放して、


「お前が『俺の想定を超えて壊れている』という事はよくわかった。『俺の狂気にあてられて発狂している』というだけでは説明できない歪み方。『なんで、そこまで壊れているのかわからん』が……まあ、別にいい。そういうこともあるだろうぜ」


 ナイアは、決して全知全能ではない。

 ただ『設計図を知っている』だけで『過程の全て』を知っているわけではない。

 また『命の全て』を把握しているわけでもないため、

 『感情』によってもたらされる『乖離性カオスの余波』は演算しきれない。


 混沌そのものでありながら、混沌の核を解し切れてはいない。

 なんだってそう。

 『自分』を『完璧に理解できる者』はいない。


「お前の壊れ方に翻弄されるのはここまでだ。これ以上は看過できない。なぜならば、俺もそれなりに壊れているって自負があるからだ。こちとら、ラスボスをやる気満々のスーパーヘビー級サイコパス。変態ぶりで負けるわけにはいかねぇんだよ。歪み方で俺に対抗しようなんざ、片腹痛い!」


「別に壊れ方で対抗しようだなんて一ミリも思っちゃいないんだけどねぇ。てか、君、変なところで負けず嫌いなんだねぇ。心配しなくても、君はちゃんと豪快に支離滅裂だよぉ」


 ケラケラと笑ってから、


「あ、そだ。一つお願いがあるんだけど、聞いてくれるぅ?」


「お願い?」


「呪いをもとに戻してくれないかなぁ? 私は『男の自分』をすごく気に入っていてねぇ。まあ『男であることが好き』っていうより『女であることが面倒くさい』って感じだけど、まあ、どっちでもいいよねぇ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る