壊れ方が加速するヤマト。

 壊れ方が加速するヤマト。


 ヤマトは、躊躇なく、


「……『自爆ランク30』……」


 そうつぶやきながら、魔カードを破り捨てた。

 その瞬間、ヤマトのコアオーラが猛烈に膨れ上がっていく。


 ランク30という、超々々々高位の魔カードを執行。

 10年以上の時をかけて、丹念に磨き上げられた魔力の結晶。


 もはや、誰にも止められない。

 この狂気に介入できる力はこの世に存在しない。

 たとえコスモゾーン・レリックですら抗いきれない最果ての爆発がはじまる。


 絶対不可避の自爆。

 それを、いっさいの躊躇なく執行した異常。


 なんの迷いもないヤマトのイカれた行動に対し、

 ナイアは、一度、


「……うっざ……」


 っと、面倒くさそうに舌を打ってから、


 ――パチンッッ


 と、大きな音で指を鳴らした。


 すると、

 膨れ上がっていたヤマトのオーラが急速に縮んでいった。


 自爆を阻止されたヤマトは、困り顔で、


「……えぇ、うそぉん……ランク30の魔カードだよぉ? それを……強制解除するなんてぇ……えぇ……」


 執行された魔カードに介入する術はいくつかある。

 が、どの手段であれ『遥かなる高み』からでなければ介入不可能。


 つまりは……


「なんというか……ほんと、すごいねぇ、君。もう、なに一つ理解できないやぁ……はははぁ」


「おい、罪帝ヒミコ。いったん、話を聞け。自分勝手に話を進めんな。現状は俺の時間だ。お前のオンステージはすでに終わった」


 心底ウザそうにそう声をかけてきたナイアに、

 しかし、ヤマトは、ラリったような顔で、


「罪帝ヒミコなんて人間は、もう、この世に存在しないよぉ。私はゴキのヤマト。ゴキのヤマトとして生きて、ゴキのヤマトとして死ぬ。そう決めて生きてきた。その決断は、選択肢を奪われたゆえの妥協ではなく、ゆるぎない私自身の意志」






『あぁ……ヒミコ様……どうして……なぜ……どうして……』

『なぜ? 簡単な話だよぉ。この選択が一番いいと思ったからだねぇ』

『……我々など、見捨ててしまえばよかったのです……な、なぜ、我々ごときを守るために……ヒミコ様が……こんな目に……』

『それは違うねぇ。精一杯尽くしてくれた君たちに、多少の感謝をしていなくもないけど、私という人間は、そういう感情を軸にして生きていないからねぇ』

『……ヒミコ様……』

『私の地位は剥奪されたも同然だから、君たちの再就職に便宜をはかることはできないけど、君たちは実力があるから、職には困らないよねぇ? むしろ、厄介者の私から離れることが出来るワケだから、いろいろとプラスだよねぇ、これまで、罪帝ヒミコの子守という面倒極まりないお仕事、ご苦労様ぁ。もう君たちは自由だよぉ』

『われわれは……ヒミコ様の……護衛です。それ以外の何かになる気など――』

『もう私に護衛は必要ないよぉ。ぶっちゃけ、もともと必要ないしねぇ。あと、私はもう罪帝ヒミコじゃない。そういう看板は、リライト先生にぜんぶ消されちゃったからぁ』

『……ぁ、あのビビリクソ野郎……自分がヒミコ様より劣っていることに気づいたからって……こんな、ふざけたマネしやがって……こ、殺してやる……』

『むりだからやめときなよぉ。ていうか、そんなに怒ることでもないよねぇ。むしろ、私はリライト先生に感謝しているよぉ。罪帝の看板は私にとって鬱陶しい荷物でしかなかったからねぇ。というわけで、私はこれから自由に生きるよぉ。だからルスたちも、これからは自由に生きたらいいと思うよぉ。じゃあねぇ』






「――ゴキのヤマト。それが私の誇り。自分で選んだ道。そのプライドだけは、絶対に、誰にも奪わせない」


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