壊れているヤマト。

 壊れているヤマト。


(……アレはダメだ……相手にしちゃダメなやつ……魔法なんか、いくら使ったって無意味も無意味。何千、何万、何億回を積んでも、完全に無意味なパターン……)



 今のヤマトでは、『どのぐらい無意味なのか』をデジタルに理解することは出来ない。

 しかし、この状況は、デジタルに理解する必要が一切ないので問題は何もない。


(ははは……もういいや……驚くのも飽きちゃったぁ)


 グンと両足に力を込めて、

 ナイアとの距離を詰めると、

 拳に魔力を込めて、

 殴り掛かる。


 ただ脳死で拳をくりだすのではなく、

 華麗に、流水のような武を駆使して、

 ナイアとの距離を詰めていくヤマト。


 けれど、


(ははははははははははは……当たんない、当たんなぁい……ていうか、当たったところで、これ、ダメージとおらないでしょ……なんとなく、感覚でわかる……これは本当にダメなやつだねぇ……)


 無数の拳を繰り出したものの、

 その拳が当たることはなく、

 すべて、紙一重でヒラヒラと避けられてしまう。


 それからも、ヤマトは、狂ったように、自分にできる全てをナイアにぶつけた。

 『超希少な魔カード』や『ラスト〇リクサー的な、とっておきアイテム』もすべてフル投入して、『今の自分に可能な全て』を、あますことなくナイアにぶつけた。


 その結果、

 ヤマトは、


「……ははは……これが夢じゃないなら……世界が壊れてるってことになるねぇ……」


 理解した。

 ぶっちゃけ、最初から分かっていたことではあったが、

 しかし、どのぐらい『絶対』なのか理解したくて、

 ヤマトは全力をためしたのだった。


 狂人の思考。

 本来であれば『絶望する』とか『逃亡を考える』とか、

 そういったところに『意識のベクトル』が向くのだが、

 ヤマトの場合は『狂ったように殴り掛かる』という選択肢をとった。


 ヤマトは壊れている。

 完全に壊れている。


 だからこそ、

 華麗なる罪帝の血族でありながら、

 呪われて、『存在』を封じられて、

 裏組織で幹部なんかをやっている。


 完全院リライトを畏れさせたその異質、その狂気。


 ――ナイアが、


「まさか、俺を理解しながら、それでも殴り掛かってくるとはな……いや、理解できているがゆえにか……」


 と、ぶつぶつ言っている間、

 ヤマトは、そんなナイアの状況をシカトして、


「たしか、君のお名前はナイアだっけぇ? いやぁ、すごいねぇ、ナイアくん。そのハンパなさは、敬服ものだよぉ。……完全院リライトでも、私の全力を無傷でいなすコトなんか出来るワケないってのに……いやぁ、やれやれだねぇ」


 そうつぶやきながら、


「まいったなぁ……まさか、こんなことになるとは思っていなかったよぉ……」


 そこで、ヤマトは、すべての武器を捨てて、


「……こんなところで『死ぬ』とは思っていなかったなぁ……けど、しょうがないよねぇ……人生って、結局のところは、そういうものだしぃ」


 ボソっとそうつぶやいた直後、

 ヤマトは、アイテムボックスから一枚の魔カードを取り出した。


「ただ『犬死に』はダメなんだよねぇ。美学にもポリシーに反する。そんな無様はプライドが許さない。というわけで……」


 『覚悟を決めて生きている者』ならば、

 たいがい、『ソレ』に似たモノを所持している。


 最後の最後のとっておき。

 覚悟を込めた渾身の切り札。

 絶死のアリア・ギアスを選択するにも近い狂気。


 ヤマトは、躊躇なく、


「……『自爆ランク30』……」


 そうつぶやきながら、魔カードを破り捨てた。

 その瞬間、ヤマトのコアオーラが猛烈に膨れ上がっていく。

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