ランク魔法のインフレが止まらない。

 ランク魔法のインフレが止まらない。


「なんでも、やってみるもんだな……八割方壊してしまうだろうと思っていたんだが、完璧に成功した……すごいな、俺……いや、この場合、俺がすごいというより、そういう運命だったと考えた方が楽しいか?」


 などと言いながら、

 ヤマトのもとへと近寄っていく。


 目と鼻の先まで近づくと、


「さて……それじゃあ、そろそろ、まともな対話をはじめようか」


 そう言うと、ナイアは、ギュっと拳を握りしめて、


「さあ、もっと俺を『理解』してくれ」


 言いながら、ヤマトの腹部に、


「がはっ!!」


 ガンと拳を叩き込む。


 吐血するほどではない。

 『くの字』になる程度の拳。

 意識がマヒするほどではない拳。

 ある意味で、もっとも痛みを感じることができる明快なダメージを受けて、


「ぅぷ……ぅえ……ぉ、重たいねぇ……」


 ヤマトは、

 ゆがんだ表情で、

 しかし、夢見心地ではなく、

 ハッキリと、ナイアの目を見て、


「……き、聞いていいかなぁ」


「ああ、特別だぞ」


「私に……何をしたのかなぁ?」


「ちょっと壊れすぎていたから、少しだけ修理した。修正しすぎると楽しくないから、ほんの少しだけ、調節する程度に」


「……ははは……すごいこと言っているねぇ……」


 言いながら、ヤマトは姿勢をピンと伸ばして、


「回復魔法……って感じでもなかった……何か、とても暖かい……まるで、天上から降り注ぐ光のような……」


 ぶつぶつと、そう言葉を発しているヤマトに、

 ナイアは、


「ランクに換算すれば2000を超える神の魔法だからな。そこらの回復魔法とは次元が違う。つぅか、同列に考えてはいけない」


「……ランク2000の魔法? ……は、ははは」


 狂ったような笑いではなく、

 乾いた笑いだった。


 あきらかな嘲笑。

 小バカにしている――というわけでもないのだけれど、

 『その手の雰囲気』が漂って仕方がない笑み。


 その笑みを受けて、

 しかし、ナイアは、

 薄く口角を上げた。


「ふふ、ようやく、まともな会話ができそうだな」


 そうつぶやくと、

 右手を天に掲げ、




「創世(そうせい)・不浄聖域(ふじょうせいいき)ランク3500」




 狂ったランクの魔法を使う。


 すると、

 異空間が弾けて、

 まるで、宇宙のように、

 無数の光の粒に包まれた領域へと変貌した。




「ぁ……ぁあ……」




 ヤマトが、ただただ圧倒されていると、

 ナイアが、続けて、






「煉獄(れんごく)・不滅彗星(ふめつすいせい)ランク3700」






 またもや、凶悪なランクの魔法を使った。

 ほとばしる魔力量は、

 ヤマトの理解を超えている。

 大きいとか小さいとかではなかった。

 ――ただ、まぶしかった。


 ナイアの魔法は、まるで世界を終わらせる息吹。

 宇宙を切り取ったような亜空間のあちこちで、

 灼熱(しゃくねつ)を装飾したような盲愛(もうあい)の輝きが、

 群れをなす烈日(れつじつ)のごとく、

 無数に膨らんでは、盛大に弾けて飛んでいく。



 唐紅(からくれない)の荘厳なテイルを残しながら、

 黒檀(こくたん)を瑠璃(るり)に、

 瑠璃(るり)を紫銀(しぎん)にと鮮やかに、


 高貴な七色へと変化していく様(さま)は、

 まるで光沢の強いベルベットみたいで、


 寂しがり屋の無を強引に包み込み、

 すべての天(そら)を、

 神様の絵画にしていく。


「世界が……終わっていく……」


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