クツグアの呪い。

 クツグアの呪い。


 ヤマトは、自分の胸と股間に手をあてた。


 5年つきあったコトでようやく慣れてきた『男の象徴』が完全に消滅し、

 かわりに『同年代と比べると、かなりボリュームがある胸部』が追加された。


 ――完全に『女』に戻っている自分を確認すると、


「……ど、どうやって解いたのかなぁ……『クツグアの呪い』を……どうやって……」


「ふふん。クツグアが『アウターゴッド級』だという誤認が広まっているようだが、あんなもの、しょせんは、ただの最上位GOO。GOOの中で最高位であることは認めるが、アウターゴッドとGOOの間には超えられない壁がある。ようするに、俺の相手じゃないってこと。そもそも、そのデータ書き換えは、正確にいうと、クツグアの呪いというより、リライトの呪いだしなぁ」


「理解できないねぇ……君が言っていることは、最初から今に至るまで、何一つ……君は、何者なのかなぁ?」


 何者かと問われて、

 ゲンは、


「ようやく聞いてくれたな! 我こそが……っ」


 と、勢いよく名乗りをあげようとして、


「……んー、いや……まだその時じゃないな……」


 と首を横に振ってから、


「今は……そうだな……『ナイア』とでも名乗っておこうか。ナイア・ゲン・フォース。それ以上でもそれ以下でもない者。それが、今の俺だ。ご理解OK?」


「いや……さっぱり、わからないねぇ」


「だろうな。名前だけ言われたところで、さっぱりだろうよ」


 そう言って、ケラケラと笑ってから、


「俺が何者であるか……『それを知る資格』がお前ごときにあるはずがない。俺の名乗りを受ける資格を有する者……その資格を得られる可能性があるのは、この世で、ただ一人だけ」


 そう言いながら、遠くを見つめ、


「……今はまだツボミの月光、狂気の愛を背負い舞う閃光……」


 ボソっとそうつぶやいてから、

 ヤマトの目をみつめ、


「罪帝ヒミコ。お前は希少な存在だ。ゲン・フォースの人生をより面白く出来る花。ゆえに、殺さない。お前は俺の道具として、ゲン・フォースのヒロインになってもらう」


 などと、そんなことを言われたヤマトは、

 困惑を飲み込みながら、

 グっと奥歯をかみしめ、


「何を言っているか、さっぱりわからないけれど、とりあえず、どうしても言っておきたいことは……私は罪帝ヒミコではなく、ゴキのヤマトだってことだねぇ」


 そう言いながら、


「……たとえ呪いがとけたとしても、罪帝ヒミコに戻るつもりはない……というより、よくも呪いをといてくれたなと、正直憤慨しているんだよねぇ。だから……」


 ヤマトはアイテムボックスからクナイを取り出す。


 万能オールマイティな資質を持つ彼女は、

 シノビ関連の技能も有している。

 物理遠距離系の攻撃としてシノビ属性は非常に優秀。

 その分、マスターするのが難しい上級職だが、彼女ならば余裕。


 ヤマトは、特性のクナイに爆裂属性の魔力を込めて、

 目にもとまらぬ速攻で投げつけた。


 素のゲン・フォースであれば、よけることなど到底できず、

 クナイを投げられたことにも気づかないまま直撃し、

 首が爆散していたことだろう。


 しかし、ナイア・ゲン・フォースは、


 その俊敏極まりないクナイを、

 シュパっと、当然のように人差し指と親指でつまんで、

 クルクルッっと、手の中で回して遊びながら、



「ためすなよ、俺を……お前ごときが」



 きわめて平坦な声でそう言った。

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