死刑。

 死刑。


 『ロコの発言』を聞いたゲンは、心の中でつぶやく。


(……『それ』が、ロコの目的だ……『現状の五大家が当然のように望む未来』……ロコはそれを忌避している)


 具体的に、ロコを理解しているわけではないが、

 しかし、ゲンには何となく、ロコの気持ちがわかった。


 ハッキリとした明言化は難しいけれど、

 『たぶん、こうだろう』という感覚的な把握は出来た。



(ロコの『想い』を、五大家の人間が理解することは出来ない……ロコが目指す未来と、五大家に属する人間の思考は、完全に相反しているから)



 ――簡単に言おう。

 ロコは『ゼノリカ』が欲しいのだ。


 『ゼノリカの存在を知っていて、その実権を望んでいる』――というわけではない。


 ロコは、まだ、ゼノリカを知らない。

 ここでいうところの『ゼノリカ』は、すなわち、完成された比喩。

 ようするに、ロコは、

 『ゼノリカのような組織を作り上げたい』と願っているのだ。


 『あまたの命が五大家の家畜として消費される世界』ではなく、

 『心に善を抱く者が、例外なく、輝く明日を想える世界』がロコの望み。


 必要悪などなくとも合理だけで世界を回そうとする覚悟。

 不条理や不合理を抹殺し、努力が正当に認められる理想郷の渇望。


 ――その想いは、ゲンの『奥底』にも眠るもの。

 だから、少しだけ理解できたのだろう。

 誰にも理解できなかった全宮ロコを、

 ゲン・フォースだけは、理解できた。


「もういい……ロコ、お前がどうしたいか、私には本当にわからない。きっと、永遠にわからないままなのだろう。だから、もういい。正直、狂人の思想など、わかりたくもない」


 アギトはそう言い捨ててから、


「前置きが長くなりすぎたな……それでは『賭け』を始めよう」


「まだ、誰もやるとは言っていませんが?」


「逃げることはゆるさない。逃げるなら、お前には『家族会議を愚弄した罰』をあたえる」


「罰とは?」




「死刑だ」




「……おやおや、また随分と重たい罰ですわね、お兄様」


 この期に及んで、まだ、ロコは、態度を崩さない。


 この場で、いまだ『チョケたような顔つき』をしているのはロコだけだった。

 周囲は全員、静まり返っている。

 壁際に立っている特殊部隊の面々の顔は、みな、一様に重たく渋い。


 冷たい静寂が二秒流れた。

 その静けさを、アギトが破る。


「冗談でもハッタリでもなんでもない。この場で貴様の首を切る。誰も止めはしない。お前は、さすがにやりすぎだ。そして、家族全員から嫌われている」


「あらあら」


 死刑を宣告されていながら、

 しかし、ロコは冷静に、


「どちらかというと、死刑は嫌な方なので……その賭け、受けておきましょうか」


「負けた方が勝った方に個人資産の6割を差し出す……これが賭けの条件だ。異論は認めない」


「えぇ……よろしいのですか、お兄様。……『あたしの資産』と『お兄様の資産』では10倍近い差がありますけど?」


 ロコの資産が100億円くらいで、

 アギトの資産が1000億円くらい。


 『支配領域の運営費用』ではなく、

 あくまでも『個人資産』なので、

 そこまで膨大な額ではない。

 あくまでもお小遣いレベル。


 ゆえに、配下や民衆の了承等を得ずとも、

 ある程度は、自由に動かすことができる。



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