ババーン!  ロコ、タイキック。

 ババーン!  ロコ、タイキック。


「負けた方が勝った方に個人資産の6割を差し出す……これが賭けの条件だ。異論は認めない」


「えぇ……よろしいのですか、お兄様。……『あたしの資産』と『お兄様の資産』では10倍近い差がありますけど?」


「……『一般人のガキ』を相手に『一級の大人』をぶつけてギャンブルをしようというんだ……その程度のリスクは背負わんと、さすがにアンフェアが過ぎるだろう」


「あははっ、この状況で、フェアもクソもないでしょう」


「根本的に『この賭け』は、お前に対する罰――資産没収の透明化でしかない」


 ありていに言えば、この状況は、

 『笑ってはいけない』における、田中のタイキックみたいなものである。

 『賭け』という形こそ整ってはいるものの、罰から逃れることはできない。


 そんなことはロコもわかっている。

 ロコは非常に賢い子。

 ゆえに、すべて理解している。

 理解しているからこそ、

 ロコは優雅に微笑んで、


「お兄様の個人資産の6割……となると、500億くらいでしょうか。あはは、お小遣いが一気に増えますわね」


 などと言ってのける。


 アギトは、最後まで引かないロコに対し、


「ロコ、お前に勝ち目などない。私とお前が本気でぶつかったら、100%私が勝つ。自覚しろよ、ロコ。――支配領域は最小。現スペックも最弱。そして資産も雀の涙。理解しろ、ロコ……お前はただのガキだ。『全宮に生まれてきた』というだけで、他には何も持たない、何も出来ない、何も成せない……そういうただの幼女だ」


 言いたいだけの事を口にする。

 ダラダラと、色々な言葉を使ったが、本当のところ『言いたい言葉』は一言。

 『ガキが、調子にのるな』

 それだけ。


 アギトのメッセージに対し、

 ロコは、


「もちろん、理解していますわ、お兄様」


 そう言ってから、

 その視線を、ゲンに向け、


「勝てば500億のアガリになるギャンブル。その主役があなた。どう? 震えるでしょう?」


 そう声をかけてきた。

 ゲンは、


「ええ……まあ……もちろん、震えていますよ。ここで飄々とできるほどの精神力は有しておりませんゆえ」


 しっかりとキョドりながらそう言った。

 そんなゲンに、ロコは、続けて、


「あなたの取り分は……そうね、半分にしましょうか」


 などと、とんでもないことを口にした。



「はんぶ……えっ……」



「勝てば200億以上という大金が手に入るわよ」


「にひゃ……いや……えぇ……」


 この世界においては、『五大家の人間』として生まれていない限り、

 数百億という単位の金を稼げるチャンスはない。


 目の前にふってわいた望外のチャンス。

 ゲンの頭の中で、


(200億あれば……)


 闇市のラインナップが頭の中を駆け巡った。

 人間とは、文字通り『現金』なもの。


 頭の中が、『欲』の熱で満たされる。

 ちなみに、言うまでもないが、

 ゲンの中でうずまく『欲』は、

 『強さ』に対する『渇望』である。


「ここで勝てば、あなたの人生は変わる。大金だけあっても意味はないけれど、大金を抱かなければ見えない景色もある。だから……がんばりなさい」


 試すような笑顔でそんなことを言うロコ。


 その言葉を受けたゲンは、


(……勝てば、間違いなく人生が変わる……ここが、俺の人生の分岐点……)


 ゴクっと唾をのんだ。

 ドクンと心臓が高鳴る。



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