舌戦は終わらない。

 舌戦は終わらない。


「父上……いいかげん、ガツンとしかりつけなければ……あのバカは――」


 アギトの言葉を最後まで聞かず、

 テラは、


「わからないだろうな……だが、それは、この場で成すべきことではない」


「……そ、それは……そうですが……」


 委縮する。

 父の大きさに圧倒されるアギト。


「アギト、話を進めなさい。この場は、兄妹ゲンカを見守る会ではない」


「……はい」


 返事をすると、

 アギトは、


「ロコ……この件については、あとで――」


 そう言ってしめようとしたが、

 しかし、当のロコが、


「あとで? いえいえ、この場で決着をつけてしまいましょう」


 などと、場を荒らしてくる。


 ゆえに、場の空気がまたビリっとする。


「……貴様、父上の話を聞いていなかったのか?」


「当然、聞いていましたわ。むしろ、お兄様こそ、お父様のお話を聞いていらっしゃらなかったのかしら? お父様は『話を進めろ』とおっしゃった。『やめろ』ではなく、進めろとおっしゃったのですよ」


「……」


「せっかくの家族会議……この場で、皆様の前で『この件』には決着をつけておいた方が双方のためかと存じますわ、お兄様」


 そこで、アギトは、チラっとテラの顔をみた。

 全宮テラは、特に何も言わず、

 まっすぐにロコを観察している。


 アギトは、小さなタメ息をついてから、


「……では……少し時間をとって、全宮ロコに関する『問題』の全てにケリをつけるコトとしよう」


 そう言ってから、

 その視線を、グイっと方向転換し、

 ――唐突に、ゲンをにらみつけるアギト。


 突然、アギトににらみつけられて、

 ゲンは、軽くビクっとなった。

 つい、反射的に背筋を伸ばし、

 アギトと視線を合わせたり外したりと、

 挙動が若干不振になる。


 アギトは、ゲンをにらみつけたまま、


「……まずは、最初から気になっていた問題を処理しよう。ロコ……あのガキはなんだ? どういうつもりで、この神聖なる家族会議の場に連れてきた? ここはお前の『お友達』を連れてきていいような場ではない。まさか、この件も、『ウッカリ』で済ますつもりではないよな? 最初に言っておくが、この件は『可愛い天然』では済まないぞ。いや、済まさないといった方が的確か」


 明確な敵意のこもった詰問を受けたロコは、

 すまし顔で、


「彼はゲン・フォース。我が手足である毒組の局長『ソウル・フォース』の息子にして、類稀(たぐいまれ)な才能を持つ天才。いずれ、ソウルの跡を継ぎ、我が手足の根幹となる男。だからこの場に連れてきた。と、以上ですが、何か問題がありまして?」


 たんたんと、

 当たり前のことのように語るロコ。


 アギトのボルテージが上がっていく。

 ロコが語る釈明の内容など、ぶっちゃけた話、どうでもいい。

 本音を言えば、この場にガキが一人紛れていようがどうしようが、そんなことに興味はない。


 アギトをイラつかせている理由は常に一つ。

 ロコの態度がとにかく鼻につく。


「あのガキの才能の有無なんざ知ったことではないが……『現時点における警護能力』が決定的に不足しているのは事実。この家族会議の場には、それぞれが、精鋭を連れてくるのが全宮家のルール。お前はそれを愚弄した」


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