全宮ロコという異端。

 全宮ロコという異端。


「あのガキの才能の有無なんざ知ったことではないが……『現時点における警護能力』が決定的に不足しているのは事実。この家族会議の場には、それぞれが、精鋭を連れてくるのが全宮家のルール。お前はそれを愚弄した」


「愚弄だなんて、大げさな。解釈の違いでしかありませんわ、お兄様」


 どれだけ怒りをむけられようと、

 ロコは、五歳児とは思えない威風で、


「ゲン・フォースは、いずれ全宮家が誇る『剣』になる男。その逸材を、早いうちから、大切な家族の皆様に知っておいてもらいたい。彼の存在を周知徹底させることこそ、全宮家にとって有益である……そう判断したまで」


 堂々と、


「仮に、あたしの判断にミスがあったとしても、それは、単なる『幼さゆえの過ち』でしかありません。過度な激昂や叱責を受けるようなたぐいのものではない……というより、そんな鬼の首でも取ったかのような顔で、幼女の可愛いミスを叱責したりなどして……恥ずかしくありません?」


 徹底して、的確に、

 ロコは、アギトのボルテージに圧力をかけていく。


「ロコ……最後にもう一度だけ聞くぞ。これは最後の譲歩だ。頭を下げるチャンスは、ここしかない。ここで蹴ったら、もう、私は、お前に対し、二度と、わずかも、譲歩しない。それを踏まえた上で答えろ」


 そこで、しっかりと、ロコの目をにらみつけ、


「……頭を下げる気は……いっさいないのか?」


 そう問いかけると、

 ロコは、一度目を閉じて、

 スゥと静かに息を吸った。


 その特異な『静けさ』を受けて、

 その場にいる誰もが理解した。




(((((マジか、このガキ……覚悟を決めやがった)))))




 もはや言葉はいらなかった。

 というより、どんな謝罪でも、もはや、釈明には至らない。

 この空気感。

 ロコの覚悟は、すでに、蔓延した。

 もはや、誰も、ロコの覚悟を疑わない。


(おいおい……本気で全宮家にケンカを売る気か?)

(たいした武力も金も持たず……たった一人で、エリアB全てを敵に回す覚悟を決めるとは、正気ではない……)

(エリアBだけではない……全宮の敵になるということは、完全院や罪帝も敵にまわすということだぞ)

(やめておけ。まだ間に合……わないが、しかし、やめておけ)

(家族同士で流血沙汰……間違いなく、完全院の連中にバカにされる……恥の上塗り……ああ、みっともない……)


 ロコの覚悟に対し、みなが様々なことを想う。

 言葉にはしない。

 そういう場ではない。


 ゆえに、その静寂は、数秒間、キーンと上質な無音を奏でた。


 数秒後、静寂を裂くように、

 ロコが、カっと目を見開き、


「ごめんなさい、おにいさま」


 そう言って、ペコっと軽く頭をさげてから、

 すぐに顔をあげて、


「あたし、バカだから、お兄様が、なぜ、そんなにも怒っているのか、さっぱりわかりませんわ。てへ」


 かわいらしく舌を出すロコ。


 周囲の者は、みな、一様に、苦い顔になっている。

 ロコの徹底した態度を受けて、

 みなの心の中に浮かんだのは、


(((((……なぜ、そこまで……)))))


 正直、この場にいる全員が、

 『途中でロコが折れるだろう』と思っていた。


 ロコの賢さは、誰もが理解している。

 ロコはアホの子ではない。

 気持ち悪いくらい聡明な天才児。


 ゆえに、みな『ロコの無茶』は『途中でブレーキがかかるだろう』と予測していた。

 簡単に、一言で言えば、ここにいる全員が、ロコの異常性をナメていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る