ブチ殺すぞ、クソガキ。

 ブチ殺すぞ、クソガキ。


「ほんとうにごめんなさい、お兄様。ほら、あたし、ウッカリさんだから、てへ」


 ロコの『非常にわかりやすい態度』を受けて、

 アギトは、


「……っ……」


 全身真っ赤になって、プルプルと震えながら、


「……ロコ……」


 全身から、ビリビリと、電流が走った。

 『抑えきれなかった怒り』がこぼれた。


 その波動は凄まじく、

 特殊部隊の面々は、反射的に防御態勢をとった。

 各々、自分に可能な最大級の防御魔法を使って、

 アギトの怒りの波動から身を守ろうとする。


 防御系の魔法を特に会得していないゲンは、

 普通に対応が遅れたのだが、


「……ありがとうございます、ソウルさん」


 即座に、ソウルさんが守ってくれたので、

 特にケガをすることもなかった。


 激しい怒りを向けられたロコは、

 しかし、それでもケロっとした顔で、


「あらあら、お兄様ったら、魔力が漏れていますわよ。おほほ、その年になって、まだご自身の能力を制御できませんの? おかわいいこと」


「……てめぇのせいだろうが……ロコォ……」


「ご自身の制御能力のなさを、あたしのせいにするだなんて……やれやれ、困ったお兄様だこと。次期当主がこのありさま……全宮家の未来は暗そうですわね」


「……」


 ギリリっと奥歯をかみしめる音がフロア中に響いた。

 その音に反比例して、アギトのビリビリとした怒りの波動は、

 グググっと縮小されていく。

 アギトは、どうにか自分を抑え込もうとする。



「すぅう……はぁあ……」



 何度か深呼吸をして、

 丹田に力を込めて、

 自分の全てを整えると、

 アギトは、


「……頭を下げる気は、いっさいないということか……ロコ」


「あたし、ここまでに、二度ほど、謝罪の言葉を口にしているのですが……聞こえませんでした? もし、聞こえなかったというのであれば、もう一度、改めて謝罪いたしましょう。『天然なあたし』の『かわいいウッカリ』のせいで、お兄様の『ほんのりファニーなお顔』に泥を塗ってしまい……本当に……もうしわけございませんでしたっ!」


 そう言ってから、ペコっと頭を下げるロコ。


 言動だけは、一応、謝っている風である。

 大小ともかく、『己の非』を認めてはいる。

 それは間違いない。


 しかし、そこに、心など一ミリもこもっていない。

 本気で謝罪する気などまったくない。

 ――それが、ヒシヒシと伝わってくる謝罪だった。


 誰の目にも明らかな、

 『言葉と態度だけ』の謝罪。


 『全宮ロコという人間の性格』を一ミリも知らない人間でも、

 一発一瞬で『ナメている』とビシビシ伝わってくる謝罪。


 それを受けて、

 だから、当然、


「……ブチ殺すぞ……クソガキぃ……」


 アギトの怒りはさらに加速した。

 今度は、周囲に放散させるようなマネはせず、

 右手に魔力とオーラを集中させる。


 臨戦態勢。

 いつでも飛び出せる状態になったところで、

 全宮テラが、


「……アギト……」


 一言。

 たった一言、息子の名前を口にした。

 それだけで、

 アギトは、


「……っ」


 ビシっと背筋を伸ばして、

 魔力とオーラを霧散させた。



「はぁ……ふぅ……」



 短い深呼吸をはさんでから、

 アギトは、ゆっくりと口を開く。


「父上……いいかげん、ガツンとしかりつけなければ……あのバカは――」


 アギトの言葉を最後まで聞かず、

 テラは、


「わからないだろうな……」


 そう言ってから、

 アギトをにらみつけて、


「だが、それは、この場で成すべきことではない」


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