何かおこりそうな日。

 何かおこりそうな日。



 家族会議が行われる日の空は曇天だった。

 何かが起こりそうな、不穏な空気。


 会議が行われるのはエリアB500、

 都心のど真ん中にある巨大ビル――全宮タワー。


 その日、全宮タワーは、地下から最上階まで、全体的に、ピリピリとしていた。

 周囲は、黒塗りの車で埋め尽くされており、

 近くの道は、お抱えの特殊部隊によって封鎖されていて、

 一般人は半径1キロ以内に近づくこともできない。


「めちゃめちゃ厳重ですね」


 車から降りたゲンが周囲を見渡しながらそう言うと、

 背後にいるソウルさんが、


「全宮の家族会議を襲撃するようなバカは、さすがにギルティブラッドにもいないだろう……万が一、襲ってきたとしても、全宮家にキズをつけることなど不可能だが。あの方々は存在値の格が違う」


 ハッキリ言って、全宮の血族に護衛など必要ない。

 ギルティブラッドが束になっても、

 かすり傷一つつけることも叶わない。


「我々のような『厳選された特殊部隊の面々』が一丸となっても、片手で蹴散らされる。それが、五大家の人間だ。圧倒的強者。絶対の支配者。――ゆえに、この厳重警戒は、安全面への配慮ではなく、権威の可視化……軍事力の誇示といったところ」


「誰も見ていないのに、武力を誇示しても、いささか通りが悪そうですが」


「取材班も腕利きがそろっている。事実と喧伝が重なれば、自然と浸透・波及していく。人間の社会とはそういうものだ」


「……なるほど」


 全宮タワーの中へと入り、

 エレベーターで上がること50秒。

 最上階エリアにたどり着くと、

 ピリピリ感の密度がえげつない事になっていた。


 そこは『位の高い人間』しかいない異常空間となっていた。

 全宮の血族15人が一堂に会するのは、年一の家族会議以外ではありえない。


(あれが、全宮家の一族……)


 フロアの中央を陣取り、周囲に高貴さを振りまいている集団を見つけたゲンは、当然のようにそう理解した。


 当然、その集団は、臨戦態勢ではない歓談中のため、

 見ただけでは、その実力など、さっぱりわからない。


 しかし、空気感で、ハンパなさは伝わってくる。

 特に、


(あの一番体格がいいオッサン……おそらく、あのオッサンが全宮テラ……)


 視線を向けるだけで、

 ビリビリと威圧感を感じる男。


(すごいな……今の俺では、指一本触れることすら出来そうにない空気感……)


 こめかみから、ツーっと、汗を流すゲン。


 と、そこで、

 その『体格がいいオッサン』が、チラっとこちら側に視線を向けてきた。

 その視線は、ゲンの横にいるソウルさんに向けられている。


 体格がいいオッサンは、ニっと微笑みながら、

 集団から離れ、ソウルさんに近づくと、


「よう、ひさしぶりだな、ソウル」


「久しぶりというほどでもないだろう。去年もここで会っている」


「一年会わなければ、十分、ひさしぶりだろう」


 軽やかに言葉を交わす二人を、

 ゲンはいぶかしげな眼で見ていた。


 スルスルとよどみなく会話を続ける二人。


 両者の話の流れから、

 ゲンは、その『体格がいいオッサン』が、全宮の者ではなく、

 全宮テラ直属の特殊部隊『鬼組』のリーダー『ドウレン』であることを理解する。


(こ、これだけのオーラを発している人でも……頂点じゃないどころか……特殊部隊の一人にすぎない……のか……)


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