出会えた。

出会えた。


「片腕であっても闘えます! まだまだ、あなた様に尽くせます!」


「尽くすだけなら、誰だって出来る。あたしが欲しいのは、使えるコマだけ」


「もちろん、理解しております! 心からの忠誠を誓うのはもちろんのこと、必ず、お役にたってみせます。ですので、どうか!」


 『どうかクビにはしないでほしい』と懇願するソウルさんに、

 全宮ロコは、

 問答無用で、


「――治癒ランク15」


 サラっと、ソウルさんの腕を治してしまった。


「……ぁ」


 ロコは、フラットな表情のままで、


「片腕よりも、両腕完備の方が、よりよく尽くせるでしょう。使うなら、キズモノの配下よりも、完全なる配下の方がいい」


 サラっとそう言ってのける。


 ソウルさんは、一度、完璧に治った腕を見つめてから、深々と頭を下げて、


「おっしゃるとおりでございます! そして! 心から感謝を!」


 全力で感謝を叫ぶソウルさん。


 五大家の中枢に座する者は、

 基本的に冷酷で、下々の者のコトなど家畜程度にしか思っていない者ばかり。


 だが、ロコは違う。

 彼女は、あらゆる意味でステージが違う。


 ――毒組に所属している者はいつも思っている。

 全宮ロコの配下でよかった、と。

 彼女の父親である『全宮テラ』や、

 彼女の実兄である『全宮アギト』は、

 絵にかいたような五大家の人間であり、

 全方位から悪い噂しか聞かない。


 だから、毒組のメンツはいつも思う。

 自分たちは幸福である、と。


「ところで、ソウル」


 そこで、ロコが、

 ソウルさんの背後にいるゲンを睨みながら、


「そこの少年……あなたの息子だけあって、それなりに武の資質は高そうだけれど、礼儀のほうはまるでなってはいないようね」


「ぇ?」


 言われて、ソウルさんは、バっと振り返って息子に視線を向けてみた。

 すると、

 ゲンは、突っ立ったまま、ボーっとした顔で、ロコの顔をジーっと見つめていた。


「これまでの会話等で、あたしが『誰か』ぐらいは理解できていると思うのだけれど……それでも、いっさい、敬意を見せてこないという、その明確な反逆の意思……あたしは、それをどう扱ったらいいのかしら。あなたの息子だから、出来れば摂関(せっかん)はしたくないのだけれど……」


 たんたんと言葉を並べるロコ。

 ソウルさんは、

 青い顔で、慌てて、

 ゲンの頭を掴み、


「いくら子供でも、ロコ様に、その態度は許されん」


 地面に押し付け、

 むりやり、平伏の姿勢をとらせる。


 ゲンは、自分を押さえつけてくるソウルさんに、全力で反抗しつつ、

 必死に顔をあげて、ロコの顔をジーっと見つめ続ける。


「おい、ゲン! ちゃんと頭を下げろ! どうした?! お前ほど賢く、空気が読める子が、どうしてっ!」


 ゲンは、そこらのワンパク坊主と違い、

 子供とは思えないほど理知的で空気が読める。


 なのに、今、この瞬間は、

 先ほどのサイコパスと同じくらい、

 ラリった目で、ロコの一挙手一投足を追い続けている。


 今、この瞬間、

 ゲンの全てが沸騰していた。


 言葉には出来ない。

 文章には出来ない。

 ただ、ただ、心と魂が思う。




(――出会えた――)




 何がどうとは言えない。

 この感情に言葉はつかえない。

 『言語』は、どの世界のどの時代であっても徹底して不完全。

 沸騰した情動は表現しきれない。


 が、しかし、

 あえて、この情動を、言葉にするとすれば、

 それすなわち、

 純然たる、

 ――『一目ぼれ』である。


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