五大家などしょうもない。

五大家などしょうもない。



 今のゲンは、ギルティブラッドのルスと同じくらい、

 ラリった目で、ロコの一挙手一投足を追い続けている。


 突き抜けるほどの情動。

 ゆえに、




「まるで獰猛な野獣のような目ね……いまにも襲い掛かってきそうな瞳……面白いわね」




 ロコはそう言って、

 ゲンに一歩近づき、


「あたしに何か言いたいことがあるなら聞くわよ。言ってみなさい」


 『発言の許しを得たから』――というわけでも、実際のところは無いのだけれど、

 ゲンは、一度、ゴクリとツバを飲み込み、大きく息を吸ってから、


「どうすれば……」


 気を抜くと、つっかえそうになる。

 うまく自分を操れない。

 一時的なブローカ野の麻痺。

 脳がバキバキになって、全身が熱い。


 だが『ここで歪んでいるわけにもいかない』という理解はできているため、

 必死になって、言葉を生成する。


「どうすれば……俺は……あなたの剣になれますか?」


「……」


 ゲンの発言を受けて、ロコは、いぶかしげな顔でゲンを見る。

 もろもろ、はかりかねている表情。

 いろいろと認識が追い付いていない。

 ゲンの情動は、あまりにも、急角度すぎる。


 そんな、絶賛困惑中のロコに、

 ゲンは、バキバキの目で、


「俺は……あなたの……」


 と、そこで、

 ソウルさんが、喉を開いて、


「ロコ様、もうしわけございません!」


 息子の代わりに謝罪をする父。

 どうにか『この散らかった場』を整えようと、頭をひねり、


「この子の夢は、五大家の類縁に名を連ねることでして、だから、このように焦った言動をとってしまいましたが、決して、ロコ様に対する反抗の意思などは――」


「違う」


 ソウルさんのフォローを、

 ゲンは、一刀両断に切り捨てて、

 ロコの目をまっすぐに見つめたまま、


「俺が望む未来は……あなたの剣。それ以外はどうでもいい。五大家とか、類縁とか、そんな、しょうもない話は、心底どうでもいい」


 ゲンの言葉を、

 ロコは、数秒かけて咀嚼した。


 ゲンの発言は、あまりにも『まっすぐ』が過ぎて、

 『色々あって、ゆがんでしまった今のロコの頭』では、

 処理するのに少しだけ時間がかかってしまった。


 だが、


(五大家などしょうもない……か。気があうわね。というより、真理が理解できていると言った方が正しいかな)


 イタズラな笑顔を浮かべて、心の中でそうつぶやく。


(しょうもなくて、くだらなくて、粗悪で、不完全にすら届いていない生ゴミ……そんなものよ、五大家なんて……)


 ゲンの言葉をキッカケとして、いつもはどうにか抑え込んでいる『憎悪』とか『反発心』とか、そういう、色々なものが、一瞬のうちに膨れ上がった。

 そのイタズラな笑顔に混じっているのは、純度と濃度の高い呆れ。

 つまりは、嘲笑。


(おっと、いけない、いけない……少し緩むと、どこまでも悪口が止まらなくなってしまう……)


 ――ついほころんでしまった表情をひきしめて、

 ゲンに強い視線を送り、



「狂気の表情。鋭い目つき。断固たる決意を感じる。……『それほどの想い』をぶつけられたこと……うれしくないと言えばうそになる。しかし、それは感情の話。今のあたしは、感情の置き場など求めていない」

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