厳しすぎるドナ。

厳しすぎるドナ。


「このミッションには第三フェーズが残っていた。『バロールが敵として参戦する』という第三フェーズだ。貴様が、ゴミスを突破する打開案を見つけた直後に発動する予定だった。――バロールと私とゴミスを同時に相手にしなければいけない――そこまでいって、はじめて、貴様は逃走を考えなければいけなかった」



「……」


「強者の損失はゼノリカにとって不利益だが、『状況判断もロクに出来ない愚者』の排斥は、むしろ、ゼノリカにとって利益となる。ゼノリカに足手まといはいらない」


「……」


 ギリっと奥歯をかみしめるアモン。

 心の底から後悔が沸き上がってくる。

 グツグツと、黒い感情が、胸の中で渦巻く。

 歪な羞恥であったり、直接的な憤怒であったり、

 ――『厳しすぎるドナ』に対する『ガキらしい反発心』もゼロではないが、

 ――『認められていながら応えられなかった自分』に対する怒りもあって、


 だから、どうしたらいいのかわからない情動が、

 グルグルと、自分の中でうごめいている。


「十歳の子供を相手に、この極限査定。もちろん、厳しすぎるとは思う。しかし――」


「いえ……そこらの十歳児を相手にしているのであれば、確かに厳しすぎる査定だと思いますが、僕はそこらの十歳ではない。ゼノリカの天下、楽連の武士。督脈の15番……だから……」


 悔し涙をこらえながら、

 キっとした強い視線で、


「もうしわけございませんでした。僕の判断ミスです。ゼノリカの天下に属する者として、あってはならないミスを犯してしまいました……」


 そう言って頭を下げた。

 プライドが高いがゆえに、

 理の通った叱責を前にすれば、頭を下げずにはいられない。


 プライドが高いというのは、ワガママということではない。

 自分に対して厳しい――その器がなければ、プライドなど腐った生ごみ。


「どうか、もう一度……チャンスを……」


 そう言って、懇願しようとするが、


「二度目はない」


 冷たく切り捨てられる。

 ドナの目に温情はなかった。


 彼女はそういう女ではない。

 ゼノリカに対するヤンデレ。

 つまりは、この上なく尊き神を抱く組織の監査官。

 ――当然、『甘さ』など、カケラもない。


 打ちひしがれるアモンに、

 ドナは、


「今回の件で不合格をとった事実は覆らない。だが、金輪際チャンスを与えない――というわけではない」


「っ」


「貴様を、『エリアB』の『学園』に調査員として派遣する。そこで成果を出せば、貴様に対する評定を見直そう」


「……感謝します」


 そう言って頭を下げたアモン。


(最重要区画であるエリアAの外に……それも教育施設の調査員として……重要度は低い……下っ端の仕事だ……そこから始めるのか……)


 チャンスを与えられたことに対する喜びはなかった。

 『落ちぶれてしまった』という惨めさだけに支配される。


 掌握しきれない感情。

 まだまだ不安定な心。


 結局のところ、やはり、

 アモンは、まだまだガキなのだ。


「さがりなさい」


 命令を受けると、

 アモンは、一度、深く頭を下げてから、

 ドナの空間から脱出した。


 ドナがアモンに説教している間、

 ずっとトリップ顔で停止していたゴミス。


 ドナが、パチンと指を鳴らすと、


「――はっ」


 と、目に精気が戻り、


「な、なんだ……?」

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