正当な反省。

正当な反省。


「ハッキリ言ってやる。『ゴミスとの闘い』は、貴様ならば超えられる絶望だった。もっと直線的な言い方をするなら『貴様がギリギリ超えられるように調節した絶望』だった」


「っ」


「――『調節された絶望』すら超えられない無能など、ゼノリカには必要ない」



「……」


 ついに、アモンはおし黙る。

 まだまだ頭に反論は浮かんでいる――が、しかし、

 『芯を喰った反論である自信』はなかった。


 所詮は、すべて、子供の駄々。

 意味のない、甘えた喚(わめ)きでしかない。


(……直線的……言われてみれば、確かにそうだった……だが、ゴミスの火力は相当高くなっていたんだ。型を見切るのに時間がかかって、大きなダメージを受ける可能性はあった……)


 叱られたら、反省ではなく、まず、自分を守るための言い訳を考える。

 アモンは、どこまでも『ガキ』だった。

 いや、『人間』だったと言った方がいい。


 大人だろうと、なんだろうと、

 たいていの『人間』は、こうなってしまうのが普通。

 それが社会の事実。

 それが世界の摂理。

 ――しかし、


(……いや……これはひどい言い訳だ……自分の弱さを盾にするなど……)


 アモンは、決して『しょうもない人間』ではない。

 歯を食いしばって、自分を見直せる強者である。


 もともとそういう人間だったわけではない。

 ゼノリカに属し、ゼノリカで磨かれた結果。


 ――叱られたのは、今日だけではない。

 ――これまでも、散々、叩き込まれてきた。

 ――だから、


(どうしようもない無能の言い訳……いずれ神族になる僕が口にすることは許されない言い訳……事実、強化ゴミス程度の絶望なら超えられた……僕なら確かに超えられた……判断ミスだ……僕の……ミス……)


 『自分の奥から沸いてくる言い訳』を必死に押さえつける。

 ギリギリと奥歯をかみしめて、自分を叱咤する。


 プライドが高いがゆえに、

 認めざるをえない失態。


 アモンは、もちろん、まだまだ未熟だが、

 しかし、ただ愚かなだけではない。


 アモンは、間違いなく、

 ゼノリカの天下に属する超越者の一人だった。


 ――正当な反省を見せるアモンに対し、

 追い打ちとばかりに、ドナが、


「このミッションには第三フェーズが残っていた。『バロールが敵として参戦する』という第三フェーズだ。貴様が、ゴミスを突破する打開案を見つけた直後に発動する予定だった」


「っ」


 ドナの言葉を聞いて、アモンは、ようやく理解した。

 簡単な話。

 ゼノリカは『無能』に『無茶』を求めない。

 『超えられるであろう』と『評価された者』にのみ試練が与えられる。


 アモンは、認められていた。

 『ドナ基準レベル5』の絶望くらいなら超えられるだろうと判断されていた。

 だから、次の試練が用意されていた。

 バロールとドナが試験官という贅沢な試練。


 ――しかし、アモンはその期待を裏切った。

 ――フェーズ2で無残に脱落しやがった。


「バロールと私とゴミスを同時に相手にしなければいけない――そこまでいって、はじめて、貴様は逃走を考えなければいけなかった」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る