ゼノリカとはいったい……

ゼノリカとはいったい……


 ドナがアモンに説教している間、

 ずっとトリップ顔で停止していたゴミス。


 ドナが、パチンと指を鳴らすと、


「――はっ」


 と、目に精気が戻り、


「な、なんだ……?」


 渇いた目をこすり、垂れていたヨダレを袖でぬぐいつつ、


「ん? アモンは……どこに……」


 きょろきょろとあたりを探すゴミス。

 視界が少しぼやけていて、

 軽く意識が朦朧としていて、

 記憶も、じゃっかん、霞(かすみ)がかっている。


(俺は勝っていた……よな……ん? なんで俺は勝っていたんだ……俺よりもあいつの方が強かったような……いや、だが、しかし、気づけば、俺の方が強くて……はぁ? 何言ってんだ、俺……大丈夫か……)


 混乱している。

 意識の混濁。

 下手に『バーサク状態だった時の記憶』が残っているせいで、余計にワケがわからなくなっている。


 そんなゴミスに対して、

 ドナが、




「――真・武装闘気5――」




 最大級のバフをかける。

 強大なオーラの鎧に包まれるゴミス。


「なっ……ぁ……」


 圧倒的な解放感。

 限界を大幅に超えた姿。


 先ほどのような『バーサク状態』ではなく、

 気力も心も充実している完璧なパワーアップ状態。


「……な、なぜ、俺に強化魔法を使う? というか、なんだ……この強大な強化魔法……貴様はいったい……」


「私はエキドナール・ドナ。ゼノリカの穢れを払うためだけに存在する闇人形」


「……」


 ドナの自己紹介を受けて、苦い顔をするばかりのゴミス。

 終始、わけがわからない。


(神になるだの……闇を払うだの……こいつらの言っていることは、いちいち、抽象的過ぎて、さっぱり理解ができない……というか……ほ、本当に、どうなっているんだ、俺の現状は……)


 ゴミスは必死になって頭をまわした。

 もちろん、答えは出てこない。

 『状況を好転させる妙手』はおろか、

 現状の正確な把握すら出来ていないこの状況。


「……アモンといい……貴様といい……なぜ、そこまでの超越者が集まる……ゼノリカとは……いったい……ゼノリカとはなんだ?」


「この上なく尊き神を抱く組織」


「……」


「全ての闇を包み込んでくれた光。なにより暖かな……『果て無く美しき命の王』を胸に抱く大空」


 ドナは、己の『奥底』に根付いている『神』をかき抱きながら、

 まっすぐに、ゴミスをにらみつけ、


「理解などしなくていい。ハナから不可能。ゼノリカは『下賤の身』で解せる光ではない」


 その宣言の直後、

 ドナの姿は音もなく消えた。


 ゴミスは、反射的に精神を集中させて、

 ドナの軌跡を追う。


(はやい……しかし、今の俺ならば、とらえられる……っ)


 『真・武装闘気5』によって、キレッキレに研ぎ澄まされているゴミスの目は、ギリギリのところで『死角にもぐりこんでくるドナ』の姿をとらえた。


 自分に向かって、オーラの波動を叩き込んでこようとしている。

 戦闘開始――理解すると同時、

 ゴミスは、両手に魔力を込めて、


「鬼炎撃ランク10!!」


 カウンターを叩き込む。

 ――すると!!




「――きゃぁああっ!!」




 獰猛な炎に包まれて、悲鳴を上げるドナ。

 ドナの悲鳴はゴミスの脳をくすぐった。

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