積み重ねてきたものの差。

積み重ねてきたものの差。


「な……ナメんじゃねぇぞ! くそがぁああ!!」


 ゴミスは、慎重にアモンとの距離を詰めて、

 小技の削りや、発生の早い技での牽制を挟んで、

 丁寧に殺し合いをメイクしていこうとするが、


 アモンは、きわめて正確に、ゴミスの一手を処理していく。


「ナメずにお前と戦うのは……難しいなぁ。なんせ、ナメちゃいけない理由がないからさぁ。油断したら足元をすくわれてしまう相手……なら、こっちも、ナメないでおこうとか色々考えるけど……お前を倒すくらいなら、ぶっちゃけ、目を閉じていても出来るし」


 『大人をバカにしたガキ』特有のナメた事をほざくアモン。

 しかし、その対処は、子供とは思えないほど恐ろしく丁寧。


(す、鋭い……おそらく、肉体強度は同等……しかし、鋭さに差がありすぎる……)


 両者の間にあるのは、鍛錬の質と、費やした時間の差。

 ゴミスも、訓練はしてきた。

 これまでの人生で、それなりの時間を武にささげてきた。

 しかし、アモンがささげてきた時間は『それなり』ではなく全て。


 生まれた時から、ずっと、パメラノの英才教育を受け、

 楽連の武士になってからは、一日も休むことなく、

 『自分より強い者』との鍛錬を積み続けてきた。


 どんなに苦しくても、アモンは積んできた。

 『天上』を目指して、バカみたいに積み重ねてきた。


 だから、鋭さに差が出る。

 そして、その鋭さの差は、

 絶対的な差となって……



(強い、本当に強い! 強すぎる! パワーやスピードももちろんだが……戦闘力の質が極めて高い。間違いなく、ガキの姿はフェイク。この強さは……一朝一夕(いっちょういっせき)で身につくものではない。『長きにわたる研鑽』を必要とする『底』の深い強さ……いったい、どれだけの鍛錬を積んできたんだ……っっ)


 アモンは、生まれた瞬間から、パメラノの元で地獄の鍛錬を積み、

 ある程度の器ができた7歳のころ『楽連の武士』となった。


 周りにいるのは、強靭なメンタルと肉体を有する天才ばかり。

 誰もかれもが武の達人。

 ただの天才は一人もおらず、

 どいつもこいつも、イカれた精神力と向上心を持つ変態ども。


 まさに、休まないウサギ。

 驚くほどの速度で、わずかも迷わずに、黙々と走り続けるウサギたち。


 アモンは、そんな『変態たち』の先頭にいる。

 現状は、まだ、『先頭集団の一人』でしかないが、

 近い将来、『先頭』に立つと目されている超天才。


(積み重ねてきた重みが……伝わってくる。これは、才能ではない。いや、才能ももちろんハンパではない。しかし、それはあくまでも器。このアモンという男は……自分の器に、尋常でない努力を注いできた……)


 『どうすればもっと上にいける?』

 ひたすらに延々と『それのみ』を考え続ける狂気の集団。

 そんな中で、アモンは自分を磨いた。

 7歳のころは、まだ存在値が200前後で、楽連の上位陣には歯が立たなかった。


 しかし、プライドの高いアモンは、

 『ふざけた連中だ。どいつもこいつも、スゴすぎる。ああ、認めるよ。あんたらはスゴイ。ハンパじゃない。けど、僕よりはスゴくない。だから、負けるわけにはいかない』

 と奮起した。

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