対話をしよう。敵対はしたくない。

対話をしよう。敵対はしたくない。


 『どうすればもっと上にいける?』

 ひたすらに延々と『それのみ』を考え続ける狂気の集団。

 そんな中で、アモンは自分を磨いた。


 『あんたらはスゴイ。ハンパじゃない。けど、僕よりはスゴくない。だから、負けるわけにはいかない』


 折れそうな心にムチを打って、どうにかこうにか踏ん張り、

 必死になって上位陣に食らいついていき、

 そして、ついには、最上位ランクである『督脈』――その15番に名を連ねた。


 才能と資質と精神力――そして、とびぬけて優れた環境。

 アモンは全てをもっていた。


 全てを持ち、

 全てを正しく積み重ねてきた。


 そんな男の強さを目の当たりにしたゴミスは、

 当然のように、


「尊敬するよ、アモン。お前は強い……」


 敬意を口にした。


 闘いの中で、

 ゴミスは、心からの感嘆を並べた。


 武をかわしあったことで、

 『互いの深部』を理解した。


 高次の対話。

 拳を重ね合わせないと届かない理解。


 アモンほどの男を『知る』ことが出来た。

 その事実に、ゴミスの感情が高ぶっている。


 高まって、昂って、燃え上がって、

 だからこそ落ち着く『熱』というのもある。


「……少し、話をしよう。お前と殺し合いはしたくない」


 ゴミスは、アモンの目の前で、ファイティングポーズを解いてそう言った。

 白旗ではないが、あえて明確に戦意をゼロにしてみせる。


「それだけの強さに至った軌跡……そこには確かな重みがある。となれば、今回の件も、短絡的・衝動的な暴走ではないと推察できる。なぜ、ウチに手をだした? なにか、やむをえない理由があるなら聞かせてくれ」


 ゴミスはバカではない。

 だから『暴れまわるだけ』で物事の全てを解決しようとは考えない。

 暴力はあくまでも手段。

 布石の一つにすぎない。


 ゴミスは、まず、利を求める。

 それが基本的な、ゴミスのスタイル。

 しかし、立場というものがあるので、

 利害だけを計算し続けるわけにはいかない。

 利がないようであれば、メンツが最優先。

 当然、メンツだけに着目して利を捨てるのは愚か。

 つまりはバランス。


 メンツを軽んじる者は侮られる――が、

 利を軽んじるバカも、結局、ナメられる。

 難しい匙加減。

 奇妙なバランスの上で、ゴミスは生きている。


「アモン。お前とは、敵対したくない。ウチに手を出した理由……言いたくないなら、別に言わなくてもいい。だが、お前の目的に関しては教えてもらいたいと思っている。目標、指針、望み。それを知れば、俺たちは、次の関係に進めると思う」


 利害の一致を求めれば握手しやすくなる。

 敵対関係になりうるか否かが明確になる。

 ようするには、着地点の確認。

 闇雲に殺し合うのは愚の骨頂。


「というわけで、どうか、お前の望みを聞かせてくれないか? 俺はお前の力になれる」


 ――そんな、ゴミスの問いかけに対し、

 アモンは、小指で耳の穴をほじりながら、


「僕の望みは、今のところ、一つだね。神になりたい。最果ての高み。真なる高次存在。『そこ』に至らないと『始まらない世界』ってのがあるから」


「神、か……神ねぇ……あー、それは……つまり、その……宗教観点における抽象的な意味か? ……それとも、完全院や全宮の中枢に食い込むということか?」


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